過去作品
□ぶらんこ
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ぼろぼろのぶらんこ。
地面を強く蹴りあげれば、鉄が鈍い音をたてて軋んだ。そんなぶらんこの軋む音が、夕焼け空によく映える公園の隅から聞こえていた。
「……はあ、」
かちゃっ。絵の具の器材をぶらんこの前の柵に立て、くるみは落胆した表情をして、古びたぼろぼろのぶらんこを静かにこいでいた。静かにこいでいる、そんなつもりだがぶらんこからは人々の想像を絶するくらい鈍く大きな音が出ていた。
耳が痛い、くるみはぶらんこの軋む音が耳にきて、ぶらんこをけりあげる足を静かに止めた。そして下に俯いていた顔をゆっくりと上にあげた。
「絵、思い付かないなー」
綺麗な夕焼け空、どう考えても素晴らしい絵であろうが、くるみは頭が痛くなる思いになった。確かに素晴らしい絵、しかしくるみの何とも言えない物足りなさに、くるみ自身、頭を捻らせる以外に何一つ思い付かなかった。
「この絵、描けなきゃいけないのになあ…」
「…何故」
「そりゃあコンクールに出さなきゃいけな…」
くるみは石化の呪いでもかけられた如く、手足ともに思考回路もぴたりと止まってしまった。「どうした?」と真後ろから当たり前のように聞こえてくる声に、くるみはぶらんこから飛び上がり、声のする方を見た。
「ナタク君、か」
「…」
ナタクは無言のまま、くるみの居座るぶらんこの隣のぶらんこに座り込んだ。くるみはしばらくナタクを目で追いながら、何故ナタク君がここにいるのだろう、帰宅中なのか、ぶらんこに座ったのはどうしてだろう?などの疑問が頭にたくさん過ったが、口に出すまでは頭の中での整理が出来ていなかったため、口を閉ざして大人しくぶらんこに座った。