過去作品
□語らない
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コツコツと、ハイヒールで床を蹴る度に、独特の音が廊下に目一杯と言わんばかりに響いた。仮にも綺麗な音ですね、とは言えない濁った音だった。
しばらく歩いていると、私は一つの扉の前で脚を止めた。と、同時に、さっきまでテンポよく流れていたハイヒールの音も止んだ。
私はゆっくりと扉に手を掛けて、軽々しく扉を開けた。その先にいたのは、沢山のピアスを耳につけて、爪をカリカリと噛んでいる王天君であった。
「コラ、王天君」
「………あ?なんだよくるみ…」
虫の居所が悪いように、王天君は軽く声のトーンを落しながら、こっちを見てきた。
でも、私は怯まないわ!例え睨まれても、武器向けられても、生き残れますから、王天君の不機嫌パワーに振り回されるほどやわじゃないわ。
「爪、噛んじゃだめじゃないの」
今すぐ止めなさい。
母親のように言えば、王天君は小さく舌打ちをして、さっきまで噛んでいた指を、ゆっくりとポケットにしまった。
そしてクルリと一回転し、私の前に下りてきた。
「…………」
「…………なに?」
「………なんでもねーよ」
「あら、そうかしら」
フフフッ、と小さく笑えば、王天君はポケットにしまっていた指を取り出し、恥ずかしそうに頬をかいた。
「……くるみ…あー……ん、あれだ」
「なにかしら、今度は?」
「………言わなくても分かってんだろ」
「言って貰わなくては、困ります。あえて言うならば、行動で示してくださいよ。」
王天君はまた舌打ちをし、「相変わらず、硬い女だな、くるみは。」と言って、唇を重ねてきた。角度を変えつつ、深いキスや、浅いキスを繰り返し、やっと王天君は離れた。
「………愛なんて語んねーよ」
とくに、くるみにはな。