過去作品
□飛んでいけ
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野原を呂望とよく一緒に駆け回った。呂望はイヤイヤながら、付き合ってくれた。
しかし、私は小さい頃からよく転んで、大泣きばかりしていた。
そのつど、呂望は膝を曲げて最初は「くるみは鈍臭いなァ」などおちょくるが、後々「擦りむいた所何処?」と聞いてくる。
だから私は涙を目頭に貯めながら、指差した。
呂望は傷を見るなり顔をしかめた。意外にも、傷は擦りむいた程度ではなく、木の破片が傷を作っていた。
「うっわ、痛そうだな・・・・」
「い、痛いじゃ・・・す、まない・・・もんッ」
「うわー、うわー、泣くなって、くるみ!!あ、そうだ!」
そう言うなり呂望は、服の裾を破いて傷口に巻いてきた。そして、指を近くに持って来た。
「いたいのいたいの飛んでいけー!!」
「・・・・・?」
いきなりの言葉に、私は顔をしかめた。え、呂望。ついに壊れた??
「ちげェよ。母上が小さい頃、よくしけくれたんだ!だから、くるみにもしてやっただけ・・・・」
「(読まれた・・・・)あ、痛くない・・・・」
「そうだろ?」
そう言うと呂望は私をおぶった。そしてそのまま家まで強制送還された。
あれから60年近くの歳月が流れた。私は仙人になり、呂望はいずこへ・・・・私が仙人になったのは極最近(と言っても、30年前だけど)の事。
よく岩の上で修行している。
「――--・・・・・あッ、」
ズテッ。こけた。
私は羞恥心を忘れ、そのままの体制でいた。60年くらい前なら呂望が居てくれたしなー。と思い出にしたっていたら、人影がいきなり現れた。
「・・・・行き倒れか?」
「・・・・ッ?!違います!!」
そう言って起き上がれば、目の前には太公望がいた。太公望は私のこけた後を見るなり、傷口に目をやった。
「な、なんですか・・・・・」
「・・・見せてみよ」
「・・・はい?」
「はよう」
そう言って傷口を見せた。今になっては多少の傷口など痛くはなかった。
太公望は服の裾を小さく破り、傷口に巻いた。そして
「いたいのいたいの飛んでいけ」
「・・・・へっ」
太公望?なんでそれを・・・・・
「うん?母上がよくしてくれたのだ。ついでによくこけた馬鹿娘にもの。」
「(また読まれた・・・・)あの、すいません」
「むっ?」
「その馬鹿娘って、」
「おお、くるみと言っての、所でおぬしは?」
「・・・・くるみ」
いたいのいたいの飛んでいけ
「・・・・同名?」
「いやいや、本人ですから。待てコラ呂望」
「ほ、本人だ・・・・」