ちょっとしたお礼

□おまけ
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「うう…うう〜ん…あっ!そうだっ!!」

はたと何かを思い付いたミウは、ポンと手を叩くとピタリとこちらへ身体を寄せてくる。
あまり距離の近さに心臓が跳ねた。

「お、おい…」

「あのですね、ギルバートさん。私の手を取って直接、教えていただけませんか?」

そう言って、ミウは上目遣いで自分に頼む。つまり、それは身体を寄せ合い、手取り足取り教えろとそう言うことか?
答えに戸惑っていれば、彼女は駄目ですか?と目を潤ませこちらの顔を覗き込んだ。
顔、近過ぎる…

「ぐっ…わ、分かったから…少し離れろ」

「あ、はい、すみません」

こちらの動揺が悟られぬようミウから顔を背ける。
動揺…?いや、何故、動揺なんかする?やましい事など何一つないというのに。
そう思えど、鼓動の高鳴りは治まらない。

「じ、じゃあ、始めるぞ」

「はい、お願いします」

ミウの小さな身体を抱き竦めると、彼女の指に自らの指を添え、正しいコードを押さえる込む。

「いいか、こうだ。指の先じゃなく指の腹で押さえるんだ」

「はい」

柔らかなの手に触れる度、彼女の甘い匂いを感じる度に、動悸が強くなり落ち着けと自身を戒めた。
どぎまぎとしながら師事する事、数十分。拙いながらもどうにか音階を紡げるようにまではなった。

「まあ、そこまでやれれば上出来だろ。ほら、お前のオーダー通り、12時前だぞ」

時計の針は零時10分前。指名は果たせたと言えよう。

「んじゃ、俺は帰らせてもらうからな?」

彼女からギターを取り上げ、それをケースへ仕舞おうとすると、ふいと手を掴まれその場に押し留められた。

「?何だ?まだ何かあるのか?」

「あの、もう少しだけそのギターと…貴方のお時間を私に貸していただけませんか?」

「は?ああ…まあ…構わないが」

手にしたギターをミウに渡せば、彼女は嬉しそうに微笑みながら、ありがとうございます!と、頭を下げた。
たどたどしくギターのコードを押さえる彼女は、徐にある曲を弾き始める。

「……この曲は…」

Happy Birthday to you.
世界で最も知られる誕生歌だ。
閊え閊えでそれを奏でるミウは最後まで弾き終えると、満面の笑みを以てこちらを見詰めた。

「Happy birthday!ギルバートさん!!お誕生日おめでとうございます!!」

「あ…」

そうか、今日は5月15日。
自分がこの世に生を受けた日である。
だからこそ、ミウはこの日に拘っていた訳だ。
理由を知った途端、見る間に顔が熱くなる。

「プレゼント、何もご用意出来なかったんですけど、せめてお祝いだけはしたかったんです。本当に間に合って良かった………あれ?ギルバートさん…顔が凄く赤いですけど…?」

「…っ…見るな、バカ!……そのありがとう…すげぇ…嬉しいよ」

日付はちょうど12時。
新たな齢を刻むその日に彼女と共に過ごせた事。
それが何よりの贈り物であると、ギルバートはミウから顔を逸らしながら、そんな風に思うのであった。
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