過去おまけ掲載文
□おまけ
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のらりくらりと、愚にもつかない言い訳を続ける自分に、ヨハンがしびれを切らし怒鳴りつける。
ここで、ヨハン母さんが 怒りだすのは、何時ものパターン。
だから、そろそろ彼女が助け船を出してくれる頃合いだということも、サカキは承知していた。
「ヨハネス、その位にしておいたら?」
黒髪、褐色の肌が印象的な、物腰の静かな美しい女性がこちらに歩み寄ってくる。
アイーシャ・ゴーシュ。
目の前に立つこの男の伴侶にして、ここの所長を務める女性だ。
「止めるな、アイーシャ!
今日こそは態度を改めてもらわねば、示しがつかない!」
「こんな人目の付く所で、立場ある人間同士が言い争いをしてることの方が、示しがつかないわ。
彼のことは私に任せて、貴方は先に研究室へ、行っていて。」
『しかし…』と、納得いかず言葉を繋げようとするヨハンを、彼女は穏やかな笑顔でそれを制する。
彼女の笑顔の圧力に、ヨハンはうぐっと、言葉を呑み込み代わりにため息を吐くと、『あまり、これを甘やかすなよ』と、失礼な言葉を残し去っていった。
「サカキ…」
アイーシャは夫の背を見送ると、こちらに困ったような笑顔を向ける。
実のところ、自分も彼女のこの顔には弱い。
「自棄になる姿は、あまりいただけないわ。
貴方が女性に対して不信感を抱いているのは、分かるけど…
自分を粗末に扱わないで欲しいの。」
…それを君が言うのか‥
「別に、粗末に扱っているつもりはないよ…」
「…………………………………ごめんなさい。」
つれなく、そう言い放つと、アイーシャは悲しげな顔で謝った。
彼女は…恐らく気付いているのだろう。
自分が彼女に、淡い想いを抱いていたことを…
「…ごめんなさい。でも、私には…ヨハネスだけなの‥」
「…ああ、分かっているよ。」
そんなことは、分かっている。
アイーシャは自分の友人の妻で、彼女自身大切な友人だ。
横から入り込む隙など、ないことぐらい…十分承知している。
「君が気に病むことはないよ、アイーシャ。
未練がましい男の、ただの感傷さ…」
「サカキ…………私は貴方の『特別』にはなれなかったけど、貴方の前に、そんな人が現れることを祈ってるわ。」
「…はは、そんな女性が現れるかね…僕なんかに…」
自嘲的に笑いながら、彼女にそう答えた。
――彼が運命の少女との、邂逅を果たすのは、これよりずっと先の話。