黎明の夢 外伝

□誰が為に鐘は鳴る 後編
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九死に一生を得てからは、その人の居る場所に行きたとずっと願ったけれど、神機使いの資質を持ち得ない自分には彼の傍らには行けなくて、ならばと彼の神機を守る整備士になる道を選んだ。

元より、機械いじりは好きな方であったし、素質があったのだろう。
技術系の高専での成績も上々。その甲斐もあって在学中でありながら、研修生としてフェンリルの整備士になることが出来た。

極東支部に入り、再び目にした心に思い描いていた憧れの人は、記憶にある彼とは少し違っており至極驚いた。

遠くで仲間と談笑する女性を、目を細め優しい眼差しで見詰める姿。
その瞳には寂しげな色も、悲しげな趣もない。

刹那、彼の姿にチトセの胸がどきりと高鳴る。

ただ、もう一度だけ会いたいと願っていただけなのに、あんな顔を自分にも見せて欲しいと図々しくもその瞬間、そう高望みをしてしまった。

だからこそ、頑張った。
彼に認めてもらえるように、彼が少しでもこちらを振り向いてくれるように。

なのに…

今、チトセの目の前にいる青年のヴァイオレットの瞳は怒りの火で歪んでいた。

何故、彼が怒っているのか分からない。
任務より帰還したその人は、真っ先に自分の許へとやって来た。

憧れの人、カレル・シュナイダーはこちらの腕を乱暴に掴み上げると、自分を壁へとぞんざいに投げ付ける。

「…―あぅっ!!」

壁に身体を強かに叩き付けられて、チトセは一瞬息を詰まらせた。

「やってくれたな…新入り!!」

そう言って、カレルは拘束するように自分を壁との間に挟む。
何時もの人を食う態度も、嘲笑するような声色もない。
険しい面差しと、激しい怒気にチトセの身体が戦慄いた。
幾つかこの青年の前で失態を見せたことはあるが、こんな彼の姿は初めて目にする。

「ごほっ!ごほっ!…な、なんのことで…か…カレルさ…ん?」

衝撃で上手く言葉が話せなかったが、それでも彼が何に対してそれ程までに怒りを覚えているのか知らなければならないと、チトセは必死に言葉を紡いだ。
どうして、と。

が、真摯な態度は更に彼の怒りを煽ったようで、こちらの耳にも届く程にぎりぎりとカレルは歯噛みをする。

「…今日、任務中にジャミングを起こした」

吐き捨てるように、彼が冷たく言い放ったその事実にチトセは身体を強張らせた。
背筋に冷たいものが走る。

「…え?うそ…そ、そんな…」
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