黎明の夢 外伝
□誰が為に鐘は鳴る 後編
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「え…う…あ…と、ところで珍しいですよね、カレルさんがジャミングを起こすなんて」
「…ああ、そうだよなぁ。コイツってさ、神経質なくらい銃身の手入れはマメにしてっから、滅多にジャムることもねぇのによ。
やっぱ、日頃の行いが悪いからだな」
シュンは、しかつめらしく語ると徐にその手を出し、『ほら、反省して金返せ』と腹立つ顔でこちらに差し迫る。
「ふん、宵越しの金は持たない主義でね」
ニッと不敵に笑えばカレルは差し出された手を叩き、堂々と踏み倒す意思を相棒に示した。
何時もながら厚顔な悪友のその態度に、シュンは苦り切った顔を見せる。
しかし、奴らの言うように実戦中に作動不良が起こるのは、自分にしては珍しい。
余程、相性の悪いバレットを装填したか、又はバレル(銃身)のクリーニングを怠ったか、作動不良、装填不良が起こる原因はこんなところだが、そのどちらも自分には心当たりはない。
ふいと、カレルは自らの神機に目線を流す。
マズル(銃口)からチャンバー(薬室)へ。
ハンマー(撃鉄)の辺りに目を落とし嫌な予感にカレルはそこを調べてみた。
そして、絶句する。
「………あの未熟者っ」
知り得た事実に皮膚に爪が食い込む程に強く、カレルは拳を握り締めた。
◇◆◇◆◇◆
その目を覚えている。
化け物に、家を奪われ友人を奪われ家族さえ奪われたあの日、瓦礫に挟まれ身動きの取れない憐れな小娘に向けられた、冷たいヴァイオレットの瞳を。
チトセの脳裏に深く刻まれた過日の光景。
手は差し伸べられなかった。優しい言葉すら掛けられなかった。
それでも、その人は自分を救ってくれた。
アラガミに食われ掛けたところを、彼が標的に向け撃ち放った銃弾に自分は救われたのだ。
その人からすれば、それは仕事の一環でしかなかったのかも知れない。
現に、彼はアラガミを屠ると、半死人である自分を救出することはせずに、背を向け去っていった。
細い金の髪が熱風に棚引く様を、逆巻く焔が映り込んだファイアオパールにも似た赤紫の瞳を、チトセは食い入るように眺めていた。
綺麗だと思った。
死にかけで、煙で目も喉も痛いのに、その人に助けを求めるよりもその人の姿を一秒でも長く見ていたいと、そう思ってしまう程に。
ただ、仇敵である化け物に向けられる彼の瞳が何処か寂しげで、悲しげで…どうしてそんな目をするのかとずっと気になって…ずっと忘れられなかった…