黎明の夢 外伝

□誰が為に鐘は鳴る 中編
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神機は旧世代の銃火器とは違い精密機械であり生体兵器でもあるから素人が触れられる部分は限られているが、自らの得物は最低限、自分で調整するということはいつの時代だろうとも変わらない。

射手として至極当然なことだと思ったのだが、チトセは『今はそうでもないですよ?』と残念そうにふるりと首を横に振った。

「銃身の手入れをご自身でなさる神機使いの方は、私の知る限りでも全部隊の三分の二程です。
大抵の方は神機の扱いも雑ですし、整備士に丸投げですから…」

"扱いが雑"というところでコイツはやけに寂しそうな顔を見せた。
ガキであろうと一端の整備士である自覚が、知らず面に出ていたのだろう。
どうやらコイツも、リッカ同様に技術バカであるらしい。

「それは私の仕事ですし、別に構わないんですが…
カレルさんの神機は他の方と比べると、私が手を掛けられる場所が少なくて…
だから、せめてカレルさんが無事にアナグラに帰還出来るように神機にお祈りを…――?カレルさん?」

チトセの話を途中までは神妙に聞いていたカレルだが、その馬鹿らしさに堪えられなくなり顔を俯かせ肩を震わせて、くつくつと小さく笑い始める。

「クックックッ…あははははっ!馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、やっぱりお前は馬鹿だな!お前が祈ったところで戦況は変わらないだろう?しかも、神頼みならまだしも神機にお祈りって…クックッ…」

「う〜っ…何で笑うんですか!私、真面目に話してるのに…」

「だからお前は馬鹿だってんだ、マメじゃり。真面目に話してても内容が間抜けなら笑いもするだろう?
それにだ、役にも立たない祈りを捧げるくらいなら、もっと整備の腕上げて、俺から"信頼"を勝ち取ってみせな。お前、筋は悪くないんだからよ?」

信用に足る人材になって見せろと、そう檄すれば思いもよらない自分の言葉に、チトセは暫し呆気に取られているようだった。

口にして、初めて自分が如何に青臭いことを言っていたのかに気が付き、カレルは向けられた曇りなき眼から顔を逸らす。

気を許しすぎた。
コイツがあまりに無防備で素直過ぎる所為だ。

「…カレル…さん?それって――」

「桐原」

チトセが言葉の真意を確かめようとしたその時、遮るように一人の男が自分達の会話に割って入ってきた。

コイツは確か、先日泣き崩れるチトセを慰めていた同僚の整備士だったか。第一部隊の担当整備士を示すタグが胸に付いているところを見ると、どうやらこの男はチトセの上官であるらしい。
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