黎明の夢 外伝
□誰が為に鐘は鳴る 中編
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言いたいことだけ口にすれば、ジーナは再び己の神機の調子を見始める。
咎める訳ではなく、射手としてのただの意見。
事実のみを語る淡泊な彼女の姿勢は、情に訴える説教よりもある意味効いた。
反論出来ない自分にシュンが膝を叩いて、盛大に笑っている。
ジーナに言い返せない苛立ちの分も込めて、カレルは渾身の力を持って、悪友の広いそのデコに平手を食らわせたのだった。
◇◆◇◆◇◆
アナグラに帰還するや、カレルはチトセの姿を探して神機格納庫へと赴いた。
別に、感謝しろとジーナに促されたから探している訳ではない。そう、断じて…ない。
射撃精度が上がったことは事実であるし、アイツがどう仕事をしているのか少しばかり興味が沸いただけだ。
どうにも言い訳じみている自身に、釈然としない思いを抱くも、カレルは歩む足を進めていく。
格納庫に辿り着いたカレルは、そこで不可思議な光景を目にした。
掲げられた神機に向け、膝を折り傅く一人の少女の姿を。
少女はまるで、聖像に祈りを捧げる修道女のようで、その姿に"いつかの光景"が一瞬だけ重なった。
朽ちた礼拝堂で自分の迎えを待っていた、たった一人の可愛い妹。
馬鹿らしい、アレとエリカは似ても似つかない姿ではないか…
下らない幻影を振り払うと、カレルは祈りを捧げるチトセに近寄った。
「神機に頭なんか下げて、一体お前は何がしたいんだ、マメじゃり?」
皮肉る言葉をチトセに掛ければ、少女は俯いた顔をはたと上げる。
「か、カレルさん!?」
こちらの姿を確認すると、コイツは何故か顔を赤らめ慌てふためいた。
見れば、奴が一心に祈りを捧げていた神機は、見慣れた自分の愛機だった。
「…ふっ、何だ、マメ。
そんなに慌てて、俺の神機に小細工でも仕掛けてたか?」
「ななっ!?そ、そんなこと、私してませんっ!!」
ちょっと、からかっただけだと言うのに、チトセは両手をバタつかせムキになって否定する。
貧相で小さな身体を忙しなく動かすものだから、その滑稽さに思わずカレルは吹き出してしまう。
「ふ…はははっ!冗談だ、いちいち真に受けるな。
おい…マメじゃり、落とすなよ?」
「えっ?なに…わっと!?」
手に携えていた袋をぞんざいにチトセに投げ渡すと、それをなんとか受け止めた少女は怪訝な面持ちでこちらを見遣った。
「あの…カレルさん…これは?」
「余りもんだ、お前にやる」