黎明の夢 外伝

□誰が為に鐘は鳴る 中編
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暫くしたある日、任務遂行中にちょっとしたことに気が付いた。
大したことではない。
少しばかり、射撃精度が上がったというだけだ。

自らの銃の制動率が上がったのだと…そう思いたいのだが、そうではないことは誰でもないカレル自身がよく理解していた。

だから、その日の任務の帰り、カレルの機嫌はすこぶる悪かった。

知らず舌打ちを打てば、隣の座席のシュンに怪訝な顔を向けられる。

「あ"…何見てんだよ」

「な…何だよ、カレル…何癇癪起こしてんだよ…
何があったか知らねぇけど俺に当たるなよな」

確かにガキっぽい癇癪だ。まったく、らしくない。
すると、傍目でこちらの痴態を眺めていたジーナが、珍しく口を挟んできた。

「放っときなさい、シュン。雛鳥だと思ってた子が、実は成鳥だったから前みたいに難癖つけて構えなくなるのが寂しいだけなのよ、カレルは」

などと、ジーナはさして興味ないと言う風に、自らの神機の調子を見ながら片手間にシュンにそう語った。
よもやジーナまで、そんな乙女的な妄言を吐くとは思っても見なかった。

「はっ?何だそりゃ?あんなマメじゃり相手にそんなこと思う訳がねぇだろうが…大体だな、あのドジ女が一人前の整備士だなんて、そんな馬鹿げた話があるか?お前の眼識も底が知れたな、ジーナ」

刺ある言葉でジーナを詰るも、彼女は気にする素振りも見せず、平素にその隻眼を自分に向ける。

「底が知れたのは貴方の方じゃない、カレル?
あの子の整備士としての腕は本物よ?現に、貴方の射撃精度、あの子が担当して以来、上がってるじゃない」

事実を指摘されて、思わずカレルは口籠もる。

射撃精度は、射手の能力が反映されるものであるが、それと同じく銃自体の工作精度にもよるものだ。

命中精度は各部品に余裕を持たせると下がり、逆にタイトな整備を成せば精度は上がるが作動不良(ジャム)を起こしやすくなる。
そのバランスを如何にして取るか、それが銃としての質を上げる為の命題だ。

また、発砲による反動でも部品自体は歪み、故障を引き起こす原因にもなる。
その為、銃の整備は一日足りとも欠かせない。

神機の精度は整備によって決まる。

故に、同じく狙撃手であるジーナは、その事実をよく知っていた。
だからこそ、彼女は神機の精度を上げたチトセが一人前であると言っているのだ。

「…説教なんてするつもりないけど、貴方が独りで戦っていると思ってるなら、それは大した自惚れだわ。貴方の神機は、貴方の癖と神機の癖を踏まえた上で調整が成されてる。
その上での精度の向上よ。なら、少しぐらいは整備士(あの子)に感謝してもバチは当たらないんじゃないかしら?」
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