黎明の夢 外伝

□誰が為に鐘は鳴る 中編
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「確かに年下だけど、根性あるよ、あの子?アンタの期待に応えようと、一生懸命頑張ってる可愛い子じゃない。
それにあたしだって、父さんの手伝いでアナグラに入ったのは、あの子よりちょっと若いくらいの年だったし、カレルだって神機使いになったのは十四才の頃だったでしょ?
その時、自分のこと未熟者だなんて殊勝なこと思ってた訳?そりゃ、意外だわ」

嫌味の一つも口にするれば、貧乳は反論して見せろとばかりにない胸を張った。
その様が非常にムカつく。

まったく…ああ言えばこう言う…この手の女は感情論でものを話すから嫌いなんだ…

そう、カレルが憮然とした面差しでリッカに対していると、背後からパタパタと小さな足音が聞こえてきた。
近頃よく耳にする"あの"音だ。だから、次に起こるだろう事象もカレルには容易く想像できた。

「カレルさぁ〜ん、かれ…わわっ!?きゃあっ!!」


ビターンッ!!


ちらりと後ろを見遣れば、地面に叩き付けられた蛙のように、無様に廊下に俯せになって倒れる雌じゃり一匹の姿が目に入った。
思っていた通りの状況に、カレルは呆れのため息を漏らす。

「ちょっ!?だだ、大丈夫、チトセ!?」

豪快に転んだあの間抜けに、リッカは大事ないかと慌てて駆け寄っていった。
アイツは小娘の手を取り立ち上がらせると、服に付いた埃を払ってやる。

「…いてて、ありがとうございます、リッカさん。
あはは、また転んじゃいましたぁ」

赤くなった鼻の頭を擦りながら、へらりと笑うソイツに微かな苛立ちを感じた。

桐原チトセ。
それが、この"マメじゃり"の名前で、今、自分を大いに煩わせている件の整備士に他ならない。

落ち着きがなく、恥ずかしげもなく。初めての担当に受かれているのか、執拗に自分に付いて回る。
鬱陶しいことこの上ない。
チトセはリッカに頭を下げると、いつものように自分の許へと歩み寄ってきた。

コイツの無防備なその様に、何故だか何時も心がざわつく。

ニコッと向けられる無邪気で屈託のない笑顔が、忘れた心底の淀みを掻き出されるような気がして、カレルの苛立ちは増していった。

そんな剣呑な気を察しない鈍感なこの"マメじゃり"は、不機嫌なこちらに構うことなく、今日も嬉しそうに話し掛けてくる。

「カレルさん、カレルさん、今日の神機の具合はどうでしたか?何処か不具合は出ませんでしたか?
フラッシュサプレッサーを新しい物と代えてみたんですけど…使い勝手はどうでしたか?それから…」
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