黎明の夢 外伝

□誰が為に鐘は鳴る 中編
2ページ/9ページ

「…それで、あたしに何か用なの?言っとくけどお金なら貸さないからね?」

「別に金の無心をしに来た訳じゃねぇよ…ちょっと、お前に確かめたいことがあってな」

「…確かめたいこと?」

目的が金ではなく、聞きたいことがあると言う青年に、リッカは眉を寄せ怪訝な目を向けた。
カレルは真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。

「第三付きの整備士に高専に在学中のぺーぺーを加えたのは、お前の入れ知恵らしいな?一体、どういうつもりだ?」

射抜くような目で、カレルは整備班の責任者を見据え糾弾した。

刈る者が持つ特有の鋭き視線。一般人ならば、その一睨みで畏縮させるだけの力があるだろう。

しかしながら、幼き頃より大人達と肩を並べ、この修羅場で"戦ってきた"リッカには、その威圧する眼差しも通じない。
彼女は柳のように険しい視線を流し、呆れた顔をこちらへ向ける。

「ああ…新しいアンタの担当の子のこと?
何?また"新人いびり"の悪い癖が始まったの?
カレル…アンタも二十歳なんだからさ…いい加減そう言うみっともないこと止めなさいよね」

「…正当な主張を"いびり"呼ばわりするのなら、全ての職場はパワハラだらけになるな?
俺は何も新人だから辛辣な口をきいてる訳じゃない。経験の浅い人間は基本骨子が甘い。失敗なんかされたら洒落にならねぇんだよ、こっちは。それなのに、何で俺の担当に未熟者の学生(お子様)を付けたんだ?」

そうだ。こちらは命を掛けて戦っているのだ。

戦火の中、自分の身を守れるのは手にする己の神機のみ。だからこそ、調整は熟練の技術者に任せたい。

そう思うことは、果たしていびりと言えるのだろうか?

正論だった筈だ。
だが、リッカも思うところがあるらしく引く様子はないらしい。

「学生のうちから優秀な人材を育てるってのは、本部の意向だよ?それに、新人だから未熟者って意見はちょっと横暴だと思うけど?そんな理由でいちいち人選を撥ね付けてたら、一人も人材が育たないわよ?」

「それで?その人材を育てる為に俺の所にお鉢が回って来る訳か?ふざけんなよ…第三部隊だからって、命を掛けてるのは第一部隊と変わらねぇだろうが!」

斥候、偵察が主な任務だとしても、任務には討伐部隊と変わらぬ危険性が孕んでいる。
花形の第一部隊だから、日陰の第三部隊だからと待遇がこうも違っては尖兵とて士気も下がる。

「大体、アイツはまだ十五のガキだろうが。
そんなガキにちゃんと整備が出来んのか?」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ