黎明の夢 外伝
□bad drunk!
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木箱の中にはぎっしりと詰まったボトルの酒。
その全てにあの魔酒『スピリタス』の文字が刻まれていた。
一箱12本。
ダースで五箱であるから、全部で60本もあることになる。
その事実は、如何にゴッドイーターと言えども、この場全員が卒倒する危険性を孕んでいた。
「リンドウさん、お酒が好きだと聞いてますから、折角なら故郷の物を贈ろうと思ったんです」
『奮発しちゃいました♪』と、少女は愛らしく微笑む。実にいじらしい姿。
正直泣きたくなった…別の意味で。
やはりロシア人の酒に関する了見は、極東の人間とはかけ離れたものであるのかと、リンドウは顔を強張らせた。
ついでに言えば、スピリタスはロシア産ではなくポーランド産であり、"その酒"が好きなのは別の『雨宮』である。
「ハラショー、アリサ!!
流石はロシア人!アルコールのなんたるかを心得ている!寒さで酔いどれ凍死し暑さに酒を煽り溺死しても、酒を絶やさぬロシア人の熱き酒呑み魂がお前にも宿っているようだな!
グッジョブッ!!」
と、我が姉、雨宮ツバキはぐっと親指を立てて満面の笑みで賛美した(…いや、してないか)。
姉上…キャラが崩れてます…
『では、改めて乾杯といこうか!』と、ウォッカを片手にご満悦なツバキは、嬉々としてグラスに酒を注ぐのであった。
かん黙。
ツバキは一人黙々と、スピリタスを味わっていた。
カツンというグラスを打ち鳴らす、甲高い音だけがカウンターに響いている。
姉のその後ろ姿があまりに"男らしすぎて"、何故だかリンドウは涙が出そうになった。
今のところ、彼女は一人呑みを愉しんでいる。
ショットガン勝負に持ち込むような様子はなさそうで一安心だ。
そう、リンドウが油断した時、
「ツバキさん、さっきから飲んでいらっしゃるそれ、何ですか?」
好奇心の塊の我が妹分が、姉の席につつと近寄りそう尋ねた。
「ん、ショットガンだ」
『しょっと…がん?』と、およそ酒からは程遠い名にユウは不可思議そうに小首を傾げている。
「ああ、このショットグラスに酒と…」
ツバキは小振りな硝子のグラス半分程にスピリタスを注ぎ入れると、もう半分にソーダを入れて手のひらで蓋をした。
それを押さえたままグラスをテーブルに叩き付ければ、カツン!という音を立てグラスから泡が噴き出そうとする。
それをツバキは一気に煽った。
「こうしたスタイルで飲む酒のことをショットガンと言う」