黎明の夢 外伝

□bad drunk!
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そりゃ…目も逸らしますとも…

姉の機嫌がすこぶる良いのが、弟である自分にはよく分かるからだ。
彼女の涼やかな目許は緩み、口許は微かに愉悦で崩れている。
その様が何より自分には恐ろしくて堪らない。

「ところで、リンドウ。
もう一人の主役は何処にいる?」

「え?ああ、サクヤですか?アイツならカノンと一緒に厨房にいますよ。
ケイジャン料理を振る舞うって張り切ってましたよ。姉上、辛いのお好きでしょ?」

内祝いということもあり、親しみやすいパーティーを目指して、地産の素材を生かした庶民的料理である、ケイジャン料理をチョイスした。
香辛料を利かした料理ならば、酒の肴にも良いだろうと。

「ケイジャンか…ふむ、酒食が進みそうだな…
今日は久々に良い酒が飲めそうだ」

にたり。口の端を引き上げて笑う彼女に背中に寒いものが走る。

しくった!飲む気満々だ、この人っ!

意気揚々と語る姉の姿に、この選択は失敗であったとリンドウは心の中で頭を抱えた。

「リンドウ、料理が出来たから、お皿テーブルに運んでくれない?」

厨房のサクヤから準備が出来たと声が掛かる。
会場にも仲間達の姿がちらほら見え始めていた。
最早後戻りが出来ないと、リンドウはいよいよ頭を痛める。

せめて、このまま何事もなく宴が終わりますように…

が、青年のそんな細やかな願いは叶わず、地獄の釜の蓋が開くのを彼は再び目撃することとなるのだった。


◇◆◇◆◇◆


「…えー、僭越ながらこの大森タツミが乾杯の音頭を取らせていただきます!
それでは、リンドウさん、サクヤさんお二人の幸せな門出を祝って――…」


「「かんぱーいっ!!!!」」


グラスを搗ち合わせる甲高い音が鳴り響き、斯くて祝いの宴は始まった。

第一、第二、第三のメンバーが全員揃い踏み。

皆、始めのうちは宴の馳走を口にしながら談笑していたのだが、未成年が多いこともあり次第に話の輪は酒呑みと、そうでない者とに別れ始める。

年少組とは離れ、カウンターバーにて年長組は各々好みの酒を口にし、他愛ない話を交わしていた。

最中、不満げにグラスを煽る女が一人。
彼女は自ら手にするグラスに目を遣ると"温い"と一言詰まらなそうに呟いた。

「リンドウ…ここにはアクアビットしかないのか?」

そう、グラスを傾ける我が姉君は、如何にも手にしたその酒が弱いように不満を溢すが、彼女が口にしているアクアビットのアルコール度数は40%である。
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