黎明の夢 外伝

□もう一度、ここから始めよう
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「あはは、まあ…そう結論を急がない。順を追って話すから。
君も知っての通り神機は、人工的に造られ制御されたアラガミ…単細胞生物の集合体であるアラガミだ。
リンドウ君と彼の神機の関係性。侵食を抑止するそれは、彼らの間に接合に近しいことが起こったんじゃないかと僕は推測したんだ。そして、君とマンイーターは彼ら以上に繋がりが深い。君の心臓(核)とマンイーターのコア(核)。
君達は二つの核を持つ生物とも言えなくもない…これって、ゾウリムシと似てないかい?」

博士に興味深くそう聞かれ、思わずユウは閉口する。

ゾウリムシなるものがどんな姿をしているのかは知らないが、繊毛虫というからには、きっと毛だらけのもじょもじょっとした虫なのだろう。
そんなのに似てると言われても、全然嬉しくないし、むしろヘコむ…

しかし、舌の滑りが良くなってきた博士は、こちらに構うことなくノリノリで講釈を続けた。

「そこで僕は、マンイーターの細胞を培養し、君のサンプル細胞の核と接合に近い交換を施してみたんだ。数十回のランの結果、殆どのサンプルが大部分のDNAの修復成功という結果を得られたんだよ!
君が"ゾウリムシ"と同じだという僕の見立ては間違ってなかったんだ!!
……って…ユウ、どうかしたのかい?」

「…むし…あはは…私、虫と同じなんだぁ…」

前に彼に猿と比べられたことがあったが、今度は霊長類以下の生物だ。
落ち込み具合が前の比じゃないのは当然のこと。
博士は漸く自らが配慮の足りないことに気が付き、ばつの悪い顔をして頭を下げた。

「…ご、ごめん…僕はまた余計なことを言ったみたいだね…」

「い、いえ…いいんです」

博士は気まずそうに一度咳払いをすると話を続ける。

「君は多細胞生物だから、完全には崩壊したテロメアの修復は無理だったけど、テロメラーゼの活性化には成功した。
後は臨床試験を行い、この治療が何処まで君に有効なのか調べなきゃならない」

「…それって…詰まり…」

「ああ、長寿とまではいかないけど、僕と同じ時を歩めるぐらいには、君の寿命は延びたよ。
もっと君に時間を与えてあげたかったんだけど、今の僕にはこれが精一杯だった…すまない」

そう言って博士は謝った。

何を謝ることなどあるのだろう。
生きられる。彼と同じ時間を生きて一緒に歩むことが出来る。
自分にとって、こんなにも嬉しいことはない。
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