黎明の夢 外伝

□もう一度、ここから始めよう
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博士の手を強く握り、ユウは真っ直ぐに彼を見詰めてそう頼んだ。
彼の傍にいられるなら、どんなに辛いことでも耐え抜いてみせる。
が、何故か博士は自分の決意を耳にすると、眉根を寄せた困った顔を自分に見せた。

「やっぱり、無理…なんですか?」

命の定めを覆すのは天才と謳われるペイラー・榊でもやはり無理なのだろうか。
不安げに博士に聞き返せば、頭をボリボリと掻き毟り、彼は決まり悪そうな顔をする。

「…あーっ、そのことなんだけどね……実はその………………………………………もう、解決してるんだ」

あまりに意外な彼の言葉に気抜けし、ユウは呆けたように彼の顔を見詰めた。

「かいけつ…?」

「うん」

解決したとはどういうことなのか?
運命に立ち向かおうと意気込んだのに、急な展開に全くついていくことが出来ない。
そんな様子を察した博士は、ベッドサイドのスツールを引き、そこに腰掛けるとどういうことか自分に説明をし始める。

「これは帰還したリンドウ君の身体を調べてみて分かったことなんだが…
彼のオラクル細胞の侵食は、彼の神機のアーティフィシャルCNS由来の物質により抑え込まれている状態なんだ。それどころか傷付いた彼のDNAすらも、その物質により修復されていた。その事実から、僕はある一つの仮説を立ててみたんだよ」

そこで言葉を切ると、博士は講師が生徒に質問するように、『ゾウリムシって知ってるかい?』と、自分に問いかけてきた。
ふるふると、ユウが首を横に振れば、彼の説明はソレにまで及ぶ。

「ゾウリムシ…繊毛虫とも言うんだけど、彼らは単細胞生物の仲間で、自己増殖以外に変わった有性生殖をすることで知られているんだ。真核生物は接合と呼ばれる有性生殖を行い、子孫等を残したりすることで傷んだDNAの修復をする訳なんだが、ゾウリムシは二つ持つ核の一つを交換することで、自身のDNAの修復を果たすんだ」

「DNAの修復?」

「うん、平たく言えば彼らは、その行為で若返るんだよ。そして、オラクル細胞もまたゾウリムシと同じように単細胞生物だ」

考え学ぶ単細胞生物の集合体。それがオラクル細胞からなるアラガミという存在だ。
けど、それが自分とどう関係があるのか?
益々分からなくなり、ユウは首を傾げ博士を見遣る。
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