黎明の夢 外伝
□もう一度、ここから始めよう
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『まあ…右腕は元には戻らなかったけどね…』と、彼は心苦しそうにこれまでの経緯を語る。
リンドウの無事が知れたのは良かったが、でも今は、そんな話がしたいのではない。
「違う!違うのっ!!そうじゃない!私、博士に謝らなきゃいけないの!
博士、ごめんなさい!!
私、何も分かってなかった…あなたを傷付けていたこと、ずっと気付こうともしなかった!ごめんなさい…博士…ごめん―ッ」
償いの言葉は彼の唇に塞がれ、それ以上紡ぐことが出来なかった。
「…ぁ…ンッ…ふぁ…」
博士は角度を変えて、繰り返し繰り返し、愛おしむように唇を啄む。
優しくて温かいその口付けに、ユウの眦から涙が溢れた。
濡れた音を立てて、名残惜しむように博士のそれが離れると、彼は額を擦り合わせ、切なそうな眼差しでこちらを見詰める。
「いいんだ…もういいんだ…ユウ。君は悪くない…全部…僕の所為だ。
君の気持ちも考えず、自分の気持ちだけを押し付けた僕が全て悪い…
その僕の妄執が、君を酷く傷付けてしまった…だから、謝るのは僕の方なんだよ…」
博士は苦しげに目を伏せ、深々と頭(こうべ)を垂れる。
「簡単に許してもらえるとは思っていないけど…それでも、君に謝りたい…
ユウ、すまなかった…本当に…すまなかった…」
膝を折り、懺悔する者のように彼はユウの膝に縋り付いた。丸くなったその背中が微かに震えている。
「…違う…違うっ!!」
ユウは伏せた彼の頭を胸に掻き抱くと、強く抱き締めた。
「博士の所為じゃない!
私が悪いんです!!
私が身勝手にあなたを振り回したから!あなたを追い詰めたから!だからっ!」
涙が頬を伝い落ち、博士の頭の上にぽたぽたと止めどなく落ちていく。
「…ユウ」
「ふ…ヒック…ごめん…さい…ごめんなさいっ…はかせ…」
ふいと、博士の指先がユウの頬に触れた。
彼は泣きじゃくる少女の顔を包むように両手で挟むと、涙の一筋一筋を唇で優しく拭う。
「泣かないで」
「…はかせ?」
「ふふっ、なら…僕らは同じ過ちを犯したんだね。
君も僕も本気の恋に慣れていない、未熟者だったんだよ。だから、今回のことは"おあいこ"だ」
博士はそんな風に笑いながら言うと、労るような触れるだけのキスを自分に送る。
「博士、私、もう自分の運命から目を逸らしません!だから、検査でも実験でも何でもしてください!
私、あなたと一緒に生きていきたい!!」