黎明の夢 外伝

□満る月 後編
8ページ/10ページ

帰る、絶対帰るんだ。
あの場所に、皆が待つ場所に、あの人の傍に!
強く胸にそう思い、ユウは神機を握り締めた。

「来るぞっ!!」

泥の流れがピタリと止まり、ゴボゴボと泡立つその中心から何かが現れ出でようとしていた。

一際大きな泡が膨れ、張り詰めたソレが弾けると、巨大な黒い竜神が再び自分達の前に顕現する。

「ッ!?大きい!!」

そのアラガミの姿にユウは息を呑んだ。

下肢は未だに再生できていないのか、現れたアラガミの腰から下は、床に埋もれるように一体化していて無い。
けれども、その規格外の体躯は上肢だけでもこの建物の角にまで、優に手の届く程の大きさだ。


ガァアォオオオ――ッ!!!!!!


猛りの咆哮。
自らを檄する叫びか、威嚇の為の嘶きか。
地を揺るがすその声は、死者すら揺り起こすのではないのかと思えるほど、絶対的なものだった。
隣に並び立つリンドウも、ソレの姿に言葉を失う。

荒ぶる神は、両の拳を自分達に向けて振り落とした。二人は装甲を展開しソレを受け止めるも、重い一撃に攻撃を受けるだけで精一杯で、身動ぎ一つ出来なくなる。

「ッ…くぅ!?」

「ぐっ、ぐおぉおおおッ!」

装甲を支える腕が軋む。
馬鹿げた奴の力に、押し負けそうになる。

アラガミは動けぬこちらを見遣ると、詰みの一手を撃ち放った。
口内から生じた火の槍を、奴はリンドウに向け吐き出す。

「リンドウさんッ!?」

彼に向かう槍の切っ先を横目で見て、ユウは焦りの声を上げた。
彼を助けようにも、押し付けるように迫るアラガミの拳に阻まれ、ここから一歩も動くことが出来ない。

「くっ!?」

槍先が彼に近付く。彼の身体を刺し貫くその為に。
回避はおよそ不可能だ。
絶望的な光景…けれど、

「…俺は!絶対に…生きて帰るッ!!」

歯を食い縛り、迫り来る刃の切っ先を睨み付ける彼は、決して諦めない。
生還する決意を込めた言葉を力強く叫んだ。


そうだ…それでいいんだ、リンドウ


青年の思いに呼応するように、彼の手の内の神機が目映く光輝いた。
光輝に包まれた神機は、神の拳を支える為に分離し、残された刀身は、庇うようにして彼に投じられた槍の攻撃を一身に受け止めた。まるで、意思ある者のように。

神機は武器の形を光の中で崩していく。代わり光より現れ出でたのは…
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ