黎明の夢 外伝
□満る月 後編
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帰る、絶対帰るんだ。
あの場所に、皆が待つ場所に、あの人の傍に!
強く胸にそう思い、ユウは神機を握り締めた。
「来るぞっ!!」
泥の流れがピタリと止まり、ゴボゴボと泡立つその中心から何かが現れ出でようとしていた。
一際大きな泡が膨れ、張り詰めたソレが弾けると、巨大な黒い竜神が再び自分達の前に顕現する。
「ッ!?大きい!!」
そのアラガミの姿にユウは息を呑んだ。
下肢は未だに再生できていないのか、現れたアラガミの腰から下は、床に埋もれるように一体化していて無い。
けれども、その規格外の体躯は上肢だけでもこの建物の角にまで、優に手の届く程の大きさだ。
ガァアォオオオ――ッ!!!!!!
猛りの咆哮。
自らを檄する叫びか、威嚇の為の嘶きか。
地を揺るがすその声は、死者すら揺り起こすのではないのかと思えるほど、絶対的なものだった。
隣に並び立つリンドウも、ソレの姿に言葉を失う。
荒ぶる神は、両の拳を自分達に向けて振り落とした。二人は装甲を展開しソレを受け止めるも、重い一撃に攻撃を受けるだけで精一杯で、身動ぎ一つ出来なくなる。
「ッ…くぅ!?」
「ぐっ、ぐおぉおおおッ!」
装甲を支える腕が軋む。
馬鹿げた奴の力に、押し負けそうになる。
アラガミは動けぬこちらを見遣ると、詰みの一手を撃ち放った。
口内から生じた火の槍を、奴はリンドウに向け吐き出す。
「リンドウさんッ!?」
彼に向かう槍の切っ先を横目で見て、ユウは焦りの声を上げた。
彼を助けようにも、押し付けるように迫るアラガミの拳に阻まれ、ここから一歩も動くことが出来ない。
「くっ!?」
槍先が彼に近付く。彼の身体を刺し貫くその為に。
回避はおよそ不可能だ。
絶望的な光景…けれど、
「…俺は!絶対に…生きて帰るッ!!」
歯を食い縛り、迫り来る刃の切っ先を睨み付ける彼は、決して諦めない。
生還する決意を込めた言葉を力強く叫んだ。
そうだ…それでいいんだ、リンドウ
青年の思いに呼応するように、彼の手の内の神機が目映く光輝いた。
光輝に包まれた神機は、神の拳を支える為に分離し、残された刀身は、庇うようにして彼に投じられた槍の攻撃を一身に受け止めた。まるで、意思ある者のように。
神機は武器の形を光の中で崩していく。代わり光より現れ出でたのは…