黎明の夢 外伝
□満る月 後編
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敵にとってそれは、こちらを牽制する為の攻撃の筈だった。
だが、その攻撃をユウは好機へと転じさせる。
神機を捕食形態へと移行させれば、放たれた火球を食らいそのまま敵へと撃ち返した。
インターセプトの攻撃に、ハンニバルは虚を突かれ、自らの力の直撃を食らい地に膝を着ける。
「リンドウさんっ!!」
ユウは前方にいるリンドウに呼び掛け、銃口から敵から奪った力の塊を彼に受け渡した。
「おうっ!!サンキュー!!」
リンクバーストを受け身体能力が飛躍的に向上した彼は、"脆弱な己"に引導を渡す為、その懐深くへと潜り込む。
「痛いぜ!!覚悟しなっ!!」
地を踏み込み、神機の刃を真っ直ぐにアラガミの胸目掛けて、鋭き打突の一撃を繰り出した。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ――――ッ!!!!!!」
互いの身体がぶつかり合う鈍い音が響き、神機は深々と妄執の胸に突き立てられた。
キリキリッ!と鋭い鋸刃の一枚一枚が肉を掻き、抉りだす。
もう一足、足を踏み込めば、彼の刃は奴の肉を巻き込み臓腑へと達した。
グゥクゥゥ…ッ
ずるずると、漆黒の竜は崩れ落ちるように床に身を伏せ動かなくなった。
突き立てた神機を、屍体と化したアラガミの身体から無造作に引き抜くと、リンドウはその場から離れる。その傍らへとユウは駆け寄り、彼の顔を見遣る。
「終わった…の?」
「……いや…まだだ」
リンドウは険しい面差しのまま、動かぬ敵の姿を顎で指せば、それの身体はぐずぐずと音を立てながら黒い泥となって溶け、地から湧き出すように床一面溢れていく。
「まったく…俺も厄介な奴に好かれたもんだな…」
黒い泥は辺りを侵食しながらこちらへと迫ってきた。迫る泥を二人は後退しながら避ける。
確かに感じるアラガミの存在。
ソレから発せられる腐臭にも似た気配(臭い)に、まだアレが存命であり且つ、彼を取り込むことを諦めていないことが知れた。
生き汚く、禍々しいその姿に『あくまでも、俺を逃がさないってつもりみたいだな…』と、辟易した様子でリンドウはそんな台詞を口にする。
「…よお、ユウ。お前が出した命令だ。
とことん付き合ってもらうぞ」
「勿論です。完遂して、家に帰りましょう、リンドウさん」
生きることから逃げない。その命令は、自分に命じたものでもある。
アレもまた、生きたいと、生まれ出でたいと望むもの。
どちらも退けぬ願いならば、その思いの強さこそが、生き抜く力となる筈。