黎明の夢 外伝

□逃げるなっ!!
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あのアラガミは、彼の生存本能の具現化だ。
"生きていたい"と望む彼の本心そのものだ。
死にたくないという、紛うことなき彼の意思。

自分は戦えるだろうか?
死の恐怖と。

…博士。

端末へ届いた彼からの言葉が、ユウの心を奮い立たせる。



『もう一度、君とやり直したい』



短い文章に彼の全ての想いが乗せられた言葉。


「……は‥かせっ…私も…あなたとやり直したい…っ」


ユウは顔を伏せ、震える声で本心を呟いた。
アラガミは既に臨戦の体勢を取っている。



「っ!?ユウさん、早くっ!!早く!この剣でリンドウを刺すんだ!!」

ユウは顔を上げ、レンの顔を見詰めた。
その瞳に今までにない程の、強い意思の光を宿して。

「レン、私も…覚悟を決めたよ」

そう言って、ユウは少年に満面の笑みを向けた。

「…ユウ…さん?」

そのあまりに場違いな笑顔に、レンは面食らったように目を丸くして驚いていた。

ユウは差し出された神機の柄に左手を伸ばすと、躊躇いなくそれを掴む。




「うあぁああああああぁあああぁ――ッ!!!!」

掴んだその瞬間、左腕が異形のモノへと変異した。

肉が爆ぜ、骨が砕けるような激しい痛み。
襲いくる痛みを歯を噛み締め堪えると、ユウは左腕の神機を振り抜く。



「逃げるなぁっ!!!!」



有らん限りの声でそう叫び、ギッと目の前の彼をきつい眼差しで睨み付けた。

鏡のように跳ね返る言葉。ユウは"自分自身"に向けて、更に言葉を繋ぐ。

「生きることから、逃げるなっ!!これは…命令だっ!!!!」

共に生き抜くその為に、己自身にそう命ず。

ユウは両手に神機を携え、彼へと向かい駆けていく。

自らに躍りかかる少女の姿に、アラガミも応戦の姿勢を取った。
腰を低くし、右の拳に力を集束させる。


――…ザッ


一瞬、脳裏に映像が流れ込んできた。
それは、あのアマテラスの時のように、アラガミの胎内へと自分を誘(いざな)う映像。

リンドウの身体からアラガミの体内へと。
そして、辿り着いたのは頭部の奥深くに埋もれた、黒々とした一つの球体。

…ありがとう。

それを自分に教えてくれた優しい"その人"に、ユウは心の中で感謝する。

狙うはアラガミの心臓。
ソレを砕き、彼からアラガミの身体を剥離させる!
させて、みせるっ!!!!
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