黎明の夢 外伝

□逃げるなっ!!
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「いや…もう置いていくのも…置いていかれるのも……いやよ…リンドウ…っ」

「リンドウさん…力づくでも連れて帰ります…それが…あなたに償える、唯一つの方法だから…っ!!」

諦めるな、生きろ。
後悔を引き摺る彼女と贖罪を求める少女は、彼を現世(ここ)に引き留めようと必死になって呼び掛けていた。

生きろ、生きろ…どんな姿でもいい、私達はあなたを必要としている…

彼女達の悲痛な言葉に、ずくりと胸の傷が疼いた。

『君を失いたくないんだ』

いつかのあの人の言葉が、ユウの脳裏を過っていく。



「決断が遅れれば、余計な犠牲が生まれるだけだっ!リンドウに仲間を殺させたいんですか!?」

レンの言葉に、ユウは自らの手に目を落とした。
彼の望みと彼らの望み…

尊厳はどちらへ重きを持つべきか、自らの問題を突き付けられているようで、心が揺らぐ。




『もう…俺は覚悟は…出来ている…自分のケツは自分で…拭くさ…』

…覚悟…?

自棄な彼の言葉に、何処か引っ掛かりを感じた。

死ぬ覚悟を?殺される覚悟を?
では…何故、彼は今もこうして生きていられた?

"この世界"はそんなに甘くはない。
生きる気力がなかったのなら、もっと早くにアラガミなりに喰われて彼は死んでいる。

生きたいと望まなかったのなら、彼は腕輪を失ったあの時に魔に堕ちていた筈だ。三ヶ月以上も人としての意識を保てはしない。

生きて人の姿を残し、人の意識を残す彼の姿は、口にする言葉とは裏腹に『生きたい』と如実にこちらへ訴えている。



「さあ!この血生臭い連鎖から、彼を解放してやってください!」

殺せ。レンはそう命じた。尊厳を守りくびきから解放してあげろ、と。
でも、それは"解放"などではなく"逃避"なのではないのか?

なら…私は?

自らに迫る死が逃れられないものと真っ直ぐに向き合い、立ち向かうことに恐怖して生きることを諦めた。
生きて欲しいと願うあの人の想いを踏み躙って…

逃げた。

そうだ…逃げた…誰よりも生きたいと思っていた癖に…

生きたいと願い、生きていて欲しいと願われるのなら、何を諦めることがあったのか…彼も、自分も…




『…ここから…逃げろ‥っ…これは…命令だっ!!』

ハンニバルは一際高く嘶き、戦端を開く鬨の声を上げた。
アラガミの本能のままに、自分達を屠る為に。
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