黎明の夢 外伝
□逃げるなっ!!
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異変に目を向ければ、アラガミの胎内に磔にされた咎人のように、埋もれていたリンドウの閉ざされた瞳がうっすらと開く。
サクヤが、アリサが、コウタが、ソーマが…
眼前に広がる絶望的な光景に、見入り言葉を失っていた。
「…りん…どう…」
サクヤは震える声で、恋慕う人の名前を…恋人の名前を呼んだ。
想い出の中でしか、逢瀬を重ねられなかったその人の変わり果てた姿を見て、彼女は喜びと哀しみの涙を零す。
恋人の呼び掛けにも、覚醒には至っていないようで、彼は虚ろな瞳を虚空に向けていた。
「リンドウさんっ!目を覚まして!!」
「クソッ…」
アリサが涙声で呼び掛ける。ソーマは下手に手を出せないこの状況に歯噛みする。
「今ですよ…」
突然、耳元近くで声を掛けられてユウは驚き、リンドウに向けていた目線をそちらへと向けた。
そこには、ハンニバルの後方に控えていた筈のレンが、自分のすぐ目の前に一振りの刀を携え佇んでいた。彼は愁いを湛えた瞳で自分を見詰めている。
「これを逃すと、もう倒せないかも知れない」
そう言うと、レンはその手にした紅の剣を献じるように自分へ差し出した。
「さあ…この剣をリンドウに突き立ててください…」
もう待てないと、レンは彼の神機を突き出しこちらへ押し迫る。
けれど、ユウにはそれを受け取ることが出来ない。
躊躇い目線を神機に向けたまま動けずにいれば、正体が不明であったリンドウに覚醒の兆しが微かに見えた。
彼は身動ぎし、小さく呻きを上げると眼前に佇むかつての仲間達の姿をその目に捉え、伏せ目がちであった瞳を確りと開きこちらを見据える。
ゆっくりと、血の気の失せたその唇を動かし、
「…俺のことは…放っておけ…」
そう、諦めの言葉を弱々しく紡いだ。
「…リンドウ…リンドウなのね…っ」
「リンドウさん…」
悲愴な言葉を吐く彼は、自分達に"生きろ"と命じた隊長ではなかった。
憔悴し、死を甘受しようとするその姿に、サクヤは…コウタは…苦しげに彼の名前を呼ぶ。
「何故…躊躇うんですか?彼がアラガミと化していたなら、自らの手でリンドウを殺すと…貴女はそう言っていたじゃないですか…」
レンはこちらの覚悟のなさを再度責め立て、覚悟を決めろと自分に詰め寄った。
『立ち去れ…早く…』
あの時のように、見捨てて行けと離別の言葉を紡ぐ彼に、サクヤは涙を堪えながらいやいやと首を横に振る。