黎明の夢 外伝
□逃げるなっ!!
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右腕の肉が裂けて骨が見えている。
だが、アラガミ化していたからこそ、この程度で済んだのだ。
オメガを活性化させていなければ、きっと右腕もろともこの身は左右に引き裂かれていただろう。
他の人間ならばと、思わず想像してゾッとした。
ハンニバルはゆっくりと腕を掲げ、空を頂くようにそれを広げて立ち上がる。
まるで、黄金宮殿(ドムス・アウレア)に君臨した暴君のようで、その姿は至極傲慢なものにユウには映った。
暴君の身体の中心には、未だ目覚めることのないリンドウの囚われた姿がある。
あそこから、彼の身体を引き剥がせれば…
焦り、眠る彼に目を向けるも、まだ傷が塞がらない右腕は上手く力が入らない。神機の柄を握り込めず、指は支えているだけの状態。これでは、アラガミから彼の身体を剥離することは出来ない。
…あと少し、もう少しなのに…っ!!
ギリッと口惜しさにユウは奥歯を噛み締めた。
「リーダーッ!!!!」
不意に掛けられた少女の声に、ユウは一瞬、凍りついたように身体を固めた。
顔だけを後ろへ向ければ、そこには第一部隊全員が、神機を携えエイジスへと乗り込んでくる姿。
それをユウは目を見開き見遣る。
早い…まだ、早い!
駄目だ。来ちゃ駄目だ。
彼らに、恋人であるサクヤに、この人を傷付ける姿を見せたくない…
彼らにこの人を傷付けさせたくないっ!
そんなことをすれば、彼らには消せない"痕"が残る。
だからこそ、この戦いの場に自分は一人で赴いたのだ。
汚れるのは自分一人だけでいい!
「ユウっ!!大丈夫か!今、加勢に行くかんな!!」
資材搬入用のエレベーターから降り立つコウタは、
苦戦するこちらの戦況を見て、傍らへと駆け寄ってこようとする。
追随するように、他の皆もホールの床に脚を付け駆けてきた。
このまま、この人の傍に皆を近付けさせてはいけない!!
「手を出すなぁっ!!!!」
ユウは怒号を張り上げて、彼らがこちらへ来るのを阻み、その場に押し留めた。
「命令だ!全員手を出すな!!彼の相手は私がする!!」
彼女の気炎の満ちた声と面差しに、縛られたように皆、動きが取れなくなった。すると、
『――…くぅ…あっ…』
ふいと、彼が呻き声を上げた。今までの獣のじみた咆哮に混じったくぐもった声ではなく、はっきりとした人の声で。