黎明の夢 外伝
□intermission-2
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「……なに笑ってやがる、酔っ払い」
「…いや…君はご両親によく似てると思ってね…
君は隠しているけど、人を気使い労る姿勢なんかは特に、アイーシャにそっくりだよ」
郷愁の想いを、彼らの息子であるソーマに告げれば、彼は迷惑極まりないといった顔で自分を睨み付けた。
「うるせぇ、酔いどれ狸。俺は親父達の代わりじゃねぇって言っただろう。
そんなくだらねぇ話が出来る余裕があんなら、自分の足でちゃんと歩け」
「…つれないなぁ…折角、偉いねって褒めてあげてるのに…」
その生真面目な返し方が、ヨハンを思い起こさせ、つい悪い癖が出てしまう。
からかう口調でソーマにそう言えば、射抜くような鋭い眼差しを向けられた。
「おい、調子に乗るなよ、くそ親父。その口閉じないつもりなら、てめぇの天パ残さず全部引き抜いてハゲ散らかしてやるからな…」
と、どすの効いた声で凄まれて堪らず閉口。
"殺す"とか"どつく"とかならまだしも…ハゲ散らかすとは…恐ろしい脅し文句を口にするものだと、知らずサカキは身震いした。
押し黙ったまま自室の前に辿り着けば、彼は廊下のど真ん中で自分をぞんざいに放り投げる。
「あいたっ!!」
腰と頭を強かに打ち付け、その場にうずくまり痛みにサカキは小さく呻いた。
「ここまで来れば一人で帰れんだろ、おっさん」
「ホントにつれないな、君は…もう少し優しくしてくれてもいいだろ?」
「ふん…寝言は寝て言え、クソ狸」
冷笑を浮かべ、甘えるなと一蹴するソーマはこちらに省みることなく背中を向けた。
だが、悪態を吐いた割には、彼はすぐには立ち去ろうとはせず、思いあぐむように頭(こうべ)を垂れて佇んでいる。
「………おっさん」
やがて一言、重々しく口にすると、彼は僅かに顔をこちらに向けて、じっと自分の顔を見据えた。
「言伝てを預かってる」
「?…言伝て?誰から?」
ソーマが指す言伝ての主に思い当たらず、怪訝な目を向けていると、彼から意外すぎる言葉を投げ掛けられた。
「"逢いたい"…だそうだ」
「!?ソーマ、それはっ!?」
「伝えたぞ。大切なことだ忘れんな」
狼狽える自分から視線を外し、ソーマは表情を見せないよう顔を前へと向き直す。
「アイツには…ユウには、アンタの支えが必要だ。
だから…手離したりなんてするな。アイツに…逢いに行ってやれ」
妹を憂う兄のように青年はそう忠言すると、今度こそ自分の許から去って行った。