黎明の夢 外伝
□intermission-2
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老成した人生観から導きだされた言葉。
男女の役割は全く違うもの。
いなし、いなされ、進み行く道行きこそが添い遂げる男女の在り方ではないのかと、そう彼は諭しているのだろうか。
だが、
「…そう上手くはいきませんよ」
理想と現実は違うものだ。現に自分は失敗している。
「馬鹿たれ。上手くいかないものに折り合いを付けるのが、誰かと添うってことだろうがよ。
自分の好き勝手、思い通りになる恋愛なんざ、独りよがりな自慰行為と大差ねぇよ」
そう言うと、ゲンは息子に接するようにして、自分の頭を軽く小突いた。
らしくない。
こんな風に、自らの恋愛観について語り合うことなど、ヨハンとさえしなかったことなのに…
仮面を外し、誰かに接することに苦痛を感じなくなったのは何時の頃からか。
ユウ、あの子と出会いこんなにも自分は変わったのか…
感化されるとはこういうことをいうのかも知れない。
「さてと…話も終いだし、ここらで締めだな。親父、勘定だ」
ゲンは難儀そうに腰を上げると、カウンターにカードを置き、自分の腕を掴み上げれば強引に立ち上がらせようとする。
「百田さん、僕はまだ…」
サカキはふらつく足で踏ん張り、その場に踏み留まろうとした。
このまま彼に、いいように言い包められたままなのは、どうにも座りが悪い。
素直に従わないことで、細やかな反抗心をこの老人に見せた。
随分と子供じみた抵抗だと我ながら呆れる。
しかし、そこは腐っても鯛というところか。
齢六十のこの老人は連合軍時代に培った、ガチムチな体躯と年に見合わぬ体力を遺憾なく発揮し、釣り上げるようにして自分を椅子から引き摺り下ろした。
「いぃたたたッ!!うわわ!ちょっ!危な!!」
「たくっ…ぎゃーぎゃーとうるせぇな…ちゃんと立てや…中年親父にしな垂れ掛かられても、嬉しくもなんともねぇっつーの…」
辟易した様子でそう言われ、何とも釈然としない思いを抱く。
こっちだって、そんな無駄に"いいガタイ"に身を委ねたくはない。
憮然としてゲンの顔を睨み付ければ、彼は急に真摯な眼差しをこちらに向けた。
「…部屋帰って鏡で自分の顔見てこい、榊」
「…え?」
「ひでぇ面してんぞ?
"辛い""苦しい"って全面に顔に出されちゃよ、アイツも不安になるもんだろうがよ…」
『惚れた女に余計な心配をさせるな』とゲンは付け加え、苦い顔でそう窘める。