黎明の夢 外伝

□最悪の再会
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けれども、痛む手足を引き摺り、朦朧とする意識の中でも"その人"は歩みを止めようとはしなかった。

『…ここは…何処だ‥?』

耳にしたのは男の声。
降り頻る雪の中を、何処かを目指し、その人は歩く。彼は何処へ行こうとしているのか…

『……俺は…何だ?』

あなたは誰なのか…
そんな素朴なユウの問い掛けも彼には届かない。

『…神機…何処やったっけ…』

その右手にある筈の、自らの血肉を分けた半身がないことに、怪訝な目を彼は向けている。
空手になったその右腕は、黒く異形のモノに変異していて、かつての面影は全くない。

神機…そう…そうだ。彼は神機使いで…自分達がよく知る…あの…

『…えい…じす?…そうだ…エイジス…はどっちだ…?』

彼は自らに課せられた使命を思い出し、希望の島の名を何度も繰り返して口にする。

『……俺…死んだのか…?…あぁ…眠いな…』

違う、違う…あなたはまだ死んではいない。
必死に"彼"に呼び掛けても決して応えは返されない。

幽鬼のように彼は歩く。
彼の目線の彼方には、荒城の地しか映らない。
その目の前に、白妙の雌獅子が立ちはだかろうとも、気にせず前を進み行く。

彼女の美貌が威嚇の為に醜く歪んだ。
牽制の咆哮。
その一啼きを最後に、女帝は赤々とした血を流して、雪原に無惨な肢体を伏せていた。

彼は見据える。
彼の島を。

『…ダレだ…俺を呼ぶのは…』

崖に佇む彼は、奥底から呼び掛けてくる何かに応えたがっていた。
それは"人"として留まれという理性の声か、欲望に従えという"獣"としての本能の声か…

『ドコだ…くらくらするな…』

薄れゆく意識の中で彼が思うはただ一つのこと、
エイジスへ。
そして、思考回路は断裂された。

焼ききれた回路が再び繋がれば、そこは戦場のただ中だった。
戦況を視界に捉えたその瞬間、彼は激昂した。

『アラガミかあぁァ―ッ!!』

目にするのは二匹の猿神とソレと対峙する見知った顔の男三人の姿。

『よくも仲間を!!』

彼は拳を握り込み、目の前の猿に向けて振り上げ薙ぎ払った。
アラガミはゴム毬のように壁に叩き付けられ、血飛沫を上げながら跳ね返ると、地面に力なく倒れ伏す。

『他のヤツらは何やってる!!』

自らの傍らに彼が目を向ければ、男達は彼という存在に畏怖の眼差し向けていた。

何故そんな目をするのかと、考えを巡らす間もなく、屠った筈のコンゴウが息も絶え絶えに立ち上がろうとする。
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