黎明の夢 外伝
□最悪の再会
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『…ユウ?ユウなのか?』
彼は見据える少女を…自らの妹分だと言っていた少女の名前を…自分の名前を呼んでいた。
過去からの呼び声。
その揺らぎが彼の闘争本能を一瞬抑え込んだ。
戻れ、戻れ、人へ戻れと。
けれども、アラガミの本能に蝕まれた理性は脆弱で、彼は兄のように自身を慕っていた彼女に震える腕を伸ばす。
『…くっそ…止まれええぇえぇぇェ――ッ!!!!!!!!!!』
振り抜かれた拳と、掲げられた彼女の防御の手が搗ち合い、花弁を散らすように空中に激しい火花を舞い散らした。
離れた意識が…この手に戻ってくる。
ユウはゆっくりと顔を上げ、装甲を挟み対峙する"その人"に揺れる黒曜石の瞳を向けた。
彼も…静かにこちらの顔をじっと見詰めている。
その人は何かに思い至ったのか、突き出した拳を徐に引き、矛を収めて一歩後ろへと身を退いた。
「…っ!?まっ…!!」
立ち去る素振りを見せる彼に、ユウは手を差し伸べ押し留めようとするがそれも素気無く躱される。
指先が微かに硬い表皮に触れたのみで、彼をここに留めておくことは出来なかった。
異形へと転じてしまったその人は、こちらを省みることなく背を向け、エリアから去って行ってしまった。彼に伸ばされた手だけが、所在なく宙をさ迷う。
「…す、スゲー…追い返したよ…」
追撃を止め逃げ帰る、黒のアラガミの背中を眺めながら、シュンが気抜けしたようにそう呟いた。
自分達は助かったのだと。
同意するカレルも酷く窶れるた様子で、男二人に歩み寄っていく。
「なんとか…生き延びれたな…初めてだぜ…アラガミを前にして、これほど死を覚悟したのは…」
「…あぁ…だな。しかし…アイツは一体…
ん?ありゃ、ソーマか?」
場の収まりが着き、気を抜くタツミの視界にこちらへと駆け寄る見慣れたダスキーモッズのコートが目に入った。
ソーマはタツミ達の前で足を止めると、彼ら全員の顔を見遣る。
「無事か?」
「おう、お前んとこの隊長さんのお陰でな。それよかソーマ。お前さ、さっきのアレは見たか?」
「ああ、あの黒のアラガミか…何か混じってるような可笑しな感じはしたな…」
「やっぱ、お前もなんか可笑しいって感じたか…
よお、ユウ。お前の意見はどうよ?
直接やり合ったお前なら、何か気付いたこととかあるんじゃないのか?
…?…おい、ユウ?」