黎明の夢 外伝
□intermission
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「何が可笑しい…」
不可解な反応を見せるイルを、レンは怪訝な面持ちで見遣る。
イルは口許を手で抑え、肩を震わせて笑っていた。
小馬鹿にするその姿に益々憤る。
「…ククッ…これが笑わずにいられるか。貴様のその言は、まさに道化の戯言よ」
「何だと!」
レンは立ち上がると、目の前の男に詰め寄りその胸ぐらを掴み上げた。
熱り立つこちらと違い、掴み上げる奴は蔑むような冷たい眼差しを自分に向けている。
「まだ気付かぬか、この大たわけが。貴様が成そうとしていることは、貴様が思い描いた都合のいい"理想"との心中立てに他ならぬということに」
都合のいい理想という奴の言葉に、不覚にも口籠もってしまった。
そのことには…自分でも薄々気が付いていたことであったから。
それを見てイルは『図星であろう?』と、ほくそ笑む。
「お前はヤツをかつての姿のままに死なせるつもりなのだろう?それはお前の中のヤツの姿を汚したくないだけの身勝手な思いよ。
理想と心中したいのなら、一人でやれ。
自らの手で下せないからといって、唾棄すべきそんな痴れ事にこいつを巻き込んだりするな」
イルはそう話を締め括ると、振り払うようにこちらの腕を引き剥がした。
理想と心中…確かにそうかも知れない…
中々に上手いことを言うものだと、レンは自嘲的な笑みを口許に浮かべた。
「…何とでも言えばいい。貴方には僕の気持ちは分からない…」
「ああ…分からんな。己が認めた者ならば喩え犬畜生に堕ちようとも、末期の時に至るまでその生に付き従うものではないのか?
まして、それが命の契りを交わした相手であるのならば尚更な」
そう言って、彼は真摯にこちらを見詰めていた。
傲慢な王は、諭すように自分に語りかけてくる。
「ならお偉い貴方はこの人を、最期のその時まで何もせずに見ていることしかしないんですか?」
ベッドで眠るユウの顔を一瞥し、レンは目の前の男に尋ねる。
このまま彼女を見捨てるのかと。
「知ってますよ?彼女は貴方と繋がることでその命を削っているのでしょう?
それでも、ただ黙って付き従うだけなんですか?
命の契りを交わした相手でも、このまま放って置くって言うんですか!」
語気が知らず荒くなる。
どうして、彼女の周りにはこんな薄情な者しか集まらないのか。
今ここで、こんなにも苦しんでいて、こんなにも悲しんでいるというのに!