黎明の夢 外伝
□intermission
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そんな高みの存在が、俗人のように何故、凡骨と罵る自分などと言葉を交わすかと、レンは穿った意味合いを込めて彼に問うた。
イルはそれを鼻で笑いあしらうと、見下す眼差しをこちらへ向ける。
「我が拝謁の誉れに与れたのだ光栄に思え、雑兵」
腕を組み、ふんぞり返る奴の姿は、叙事詩の傲慢な王のようで見ているだけで酷く腹が立つ。
…僕、やっぱりコイツ嫌いだ。
レンは自身の認識が正しいことを改めて理解する。
「…それはどうも。では、その高貴なお方が僕みたいな凡俗な者に何か御用がおありなんですか?」
「かまととが…厚顔無恥も甚だしい。貴様の企みを俺が気付かぬと思うてか?
羽虫のようにこいつに集り、小賢しい真似をしていること、疾うに気付いておるわ。貴様のその目的についてもな」
そう言ったこの男は眼光に鋭さを増す。
「貴方らしくないですね…数多の人間を、ゴミ同然に屠ってきた冷酷な貴方が、そんな風に誰かの心配をするなんて。
"人食い"と恐れられる貴方でも、やっぱり自分の"主"は大事なんですか?」
レンは含む言い方をイルにし、彼の瞳を見詰め返す。
共に見据えるは、紅玉髄の瞳。
視線が交錯し、重苦しい空気が二人の間を流れた。
「……ふん、それはお前のことだろう"血の軍曹"?
お前が肩入れしているあの死に損ないの為に、こいつを振り回すのは、もう止めにしてもらおうか?」
死に損ない。
侮蔑するその言葉に頭に血が上った。
訳知り顔でそんなことを抜かす奴に、腹が立ってならない。
お前にリンドウの何が分かる!
「彼を侮辱するな…僕のことは何と言っても構わない。だけど、あの人を蔑むような真似だけは絶対に許さないっ」
レンはぎりと歯噛みし、目の前の男を怒りを露に睨み付けた。
そうだ、この男が如何に彼女を大切に思っているのだとしても、リンドウが謗られる謂われはない。
彼がどんな思いで戦っていたか知っている。
彼がどんな覚悟で仲間と別れたのかも覚えている。
取り零した命に心の中で血の涙を流し、それでも折れず前へと進むその雄姿を。
それをこの男はまるで、命を惜しみ醜く生き足掻く、虫けらを指すような口振りでリンドウを罵った。
それがレンにはどうしても許せなかった。
だが、奴は息巻く自分の様子を見ると、これは愉快と盛大に笑い飛ばした。