黎明の夢 外伝
□迷走
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「リンドウの確保は成らず…か。まあ、当然の結果だな」
執務室。
任務の委細をツバキに報告すると、彼女は生温い眼差しで自分達の顔を見遣った。
瞳にこの上なく失望の色が見て取れるのは、気の所為だと思いたい。
ユウが肩身の狭い思いで佇んでいれば、隣の任務発案者のコウタは性懲りもなく次のプランを彼女に提示した。
「こ、今回は失敗しましたけど、コレ!コレ!見てください、ツバキさん!第二プランはきっと上手くいきますって!」
手にしたプランBの計画書。それをツバキに渡すと、コウタは熱を籠めて論じ始める。
…プランBのBは馬鹿のBだな…
呆れを通り越して、ちょっと尊敬してしまいそうだ。
不屈の闘志とも言おうか…だが、意気込みだけで実情が伴わないのでは、傍迷惑なだけである。
ツバキも怒る気力を失ったらしく、辟易した様子で少年を見ていた。
「…コウタ…お前の気持ちは十二分に分かった。
分かったから、これ以上厄介事は増やさないでくれ…サカキ支部長代理、貴方もあまり軽々しく任務の発行をなさらないでください」
と、彼女はチェアに腰を掛けたまま、俯き返事を返さない自らのボスに向け忠言をする。
「……」
「…聞いておられますか、サカキ博士?…?博士?」
声を掛けれど一向に返答を返さない博士の様子に訝しみ、ツバキはそっと手を伸ばして、その肩を揺り動かした。
ぐらり。
彼の身体が傾き、ゆっくりと床に向かって倒れていく。
…え‥
その光景があまりに現実味がなくて、ユウは博士が床に叩きつけられる様をただ呆然と眺めていた。
ドサッ…
一度、大きく跳ねると、そのまま力なく彼は地に伏した。
呻きも上げず、指先一つ動かない…まるで死人のようなその姿に、ザッと全身の血の気が引いていく。
「……ゃ…いやああぁっ!!博士っ!!博士ぇっ!!!!」
ユウは半狂乱で駆け寄り、彼の身体を抱き上げる。
息が浅い。
顔色は土気色をしており、とてもじゃないが正常な状態には見えない。
彼からは程遠いと思われていた『死』の気配に震えが止まらない。
「やだ!!やだ!!ペイラー!しっかりして!?」
「馬鹿者!!あまり、動かすな!」
泣き叫ぶユウをツバキは博士の身体から引き離すと、端末を操作し医務局へ連絡を取った。
数分後、駆け付けた医療班により、ストレッチャーに乗せられた彼は医療施設へと緊急搬送されることとなった。