黎明の夢 外伝

□dissonance
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「…博士…博士の言うことを聞けば、本当に私は助かるんですか?」

「――っ!?」

今まで…ずっと聞けなかったこと。
でも、もう逃げられない。
命の期限が短いなら、それを覆すことが出来ないなら…せめて、残り僅かな生は意義あるものとして過ごしたい。
怯えて、内に籠るのではなく…

だから、真実を彼に突き付ける。こんな不毛なこと、止めてもらう為に。

「博士…答えて…延命の方法は見付からないんでしょ?」

「…っ!?違う!!そんなことは…!!」

「嘘だよ…だって、私はこの世界に一個体しか存在しない生物なんだよ?
他と比べようがないのに、何処が異常を起こした遺伝子なのか分かるわけないじゃない…」

対比するものがなければ、何処が悪いかなど分からない。
人に親い存在であっても、類推することしか出来ないのが事実。
まして、個体が一つしか存在しないのならば、その寿命こそが本来の仕様かも知れないのだから。

「無いものを探して…博士は、そうやって私と二人でいられる貴重な時間を削っていくんですか?」

傍らに居られるのは後どれくらい?

一緒に眠れるのは後何日?

キス出来るのは…後何回…

短い蜜月。
だから、一時でも彼と離れたくないのに彼は…

一人で居たくない。
冷たいベッドで怯えて眠りたくない。
彼と一緒に居たい…

「……せ」

博士が何かを呟いたが、構わず言葉を繋いでいく。

「それに…私の為に誰かを犠牲にしたら…あなたは後できっと後悔する」

かつての朋を救えなかったあの時のように。
違うのはその時、自分が彼の傍らに居られないかも知れないということだ。

泣き崩れる彼の身体を誰が受け止めてくれる?

自分の所為だと責める彼を誰が慰めてあげる?

柔らかい髪を撫でてあげたくても、自分にはもう出来ないかも知れないのだ。
だったら―

彼に後悔させないように、今出来ることをしてあげたい。

「……止せ」

博士の呟きは制止の声へ。それでもユウは話すことを止めない。
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