黎明の夢 外伝
□dissonance
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だからこそ、
「博士…私―」
「ユウ」
自分から名乗り出ようとした言葉は、自分の名を呼ぶ彼の硬い声に遮られた。
博士は酷く険しい眼差しでこちらを見ている。
「……ユウ、支部長代理として命じる。君はこの件から外れなさい」
「な…なんで…」
はっきりと。
こんなにも、はっきりと、この人から行動を制限されたのは初めてだ。
『駄目だ』とか『止めて欲しい』なんて言う、強制力の弱い言葉でしか彼には命じられたことがない。
『外れろ』というのは、博士が心底こちらの身を案じ出した命令なのだろうが、これは、リンドウの生還が掛かる大事なことだ。
素直に黙って頷くなんて真似…出来ない。
「…嫌です」
キッと彼を睨み返してそう言えば、ツバキの厳命が直ぐ様飛んだ。
「控えろ、ユウ。この方はお前の婚約者である前に、この支部の最高責任者でもあるんだ。
不敬な真似は許さん」
射抜く瞳で見据えられ、微かにたじろいだ。
前線から離れても尚、この人は未だ『現役』であることを知る。
「…っ…ですが、人員は必要です!初動の捜索が遅れれば、それだけ生存の確率が低くなるのはツバキさんも知っていることじゃないですか!」
蒼穹の月での捜索の遅れは、今にして思えば前支部長が仕向けたものであった。その所為で彼を見付けられなかったのだ。
リンドウは生きていて…
あんなにも…あんなにも近くに、居たというのにっ!!
「…お前の胡乱な発言で、第一部隊(極東の要)を軽々しくは動かせない。
それは隊の長であるお前なら分かることだろう?」
「でもっ!!」
「ツバキ君」
息巻き彼女を説得する言葉を紡ごうとすれば、静かに聞き手に回っていた博士が重く口を開いた。
「すまないが、少し席を外してくれないかな?
この子と二人で話がしたいんだ」
「…榊博士…分かりました」
ツバキはこちらを一瞥すると、彼に従い執務室を退室する。
しんと、静まり返る室内。
言いたいことは色々ある。けれども、この重苦しい空気に上手く口が開かない。
緊張にコクリと唾を嚥下すると、ユウは意を決して話し始める。