黎明の夢 外伝

□記憶の残滓
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――…戦火の音が…聞こえる。

意識を集中させれば、ぼやけた視界がはっきりとしてきた。

ここは…贖罪の街?

カテドラルへと続く通路のステンドグラス。
古めかしい石積の壁。
そうだ間違いない。ここは贖罪の街だ。

そして、これはあの日の…決別の日の記憶…

『サクヤ、これは命令だ。全員必ず生きて帰れ』

自分達の隊長はそう命じて、そして二度と帰っては来なかった…

サクヤが悲痛な叫びを上げている。
コウタは泣き崩れる彼女を閉ざされた入り口の前から引き離そうとしている。

あの最後の日の再現に胸が苦しくなった。

爆轟が一際轟き『皆』は苦渋の面持ちでその場を撤退した。
場面は一転し、カテドラルの中へと移る。

…っ…リンドウさん…

瓦礫に身体を預け煙草を吹かす青年は紛れもなく、彼…雨宮リンドウその人で…

今、目にしているものが喩え過去のものであっても、もう一度、彼の姿を見れたことが嬉しくて、ユウは思わず泣きそうになった。

『行ったか…』

リンドウはぽつりとそう呟くと、背中の瓦礫に目線を流す。
彼の身体は、刃を交えたマータによる爪撃で所々抉られていて、黒のインナーを着ていても目立つ程に血が滲んでいた。

一条の煙が、ぽかりと空いた天井から覗く茜空へと向かい伸びていく。

外はあんなにも近くに。
けれど、今の彼にとってはあまりに遠い。

ふいと…本当にそれは不意に、大聖堂の割れた薔薇窓から姿を現した。

黒い老成した男の顔。
帝王、ディアウス・ピター。父なるアラガミは、気だるく紫煙を燻らせる男を見付けると、歓喜の雄叫びを一声上げた。

『…はぁ…ちょっとぐらい休憩させてくれよ…身体が持たないぜ…』

末期の酒を呷るように、リンドウは手にした煙草の煙を深く吸い込む。

重い腰を上げ彼は立ち上がると、眼前にはだかる己の敵へと歩み寄った。

戦端は開かれ、彼は帝王と斬り結ぶ。

一閃、二閃、閃く神機の刃はピターの肉を捉えるも、どれも致命傷には至らない。

振り上げた神機。
しかし、彼の一手を弾くように、ピターの鋭き爪が神機を掴む腕を直撃した。

パキリ。

何かがひび割れる音がして、次の瞬間には腕輪が火花を散らしショートを起こす。

『ぐっ!?ぅうあ"ああぁあああっ!!!!』

見る間にリンドウの腕は黒く変色していき、彼は襲いくる激痛に悶え苦しんでいた。
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