黎明の夢 外伝

□My Fair Lady
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博士は顔を酷く青ざめ、益々焦りだす。
でも、何で『ソーセージ』に食い付いてきたんだろ?

尚も、どうしようかなぁ〜と、ユウが意地悪く何度も博士の前で声を上げていると、耐え兼ねた彼が遂に折れた。

「…ぅぐぐっ…あぁーっ!!まったく!!ユウ!!君、最近意地が悪くなってないか!?」

と、がしがしと口惜しげに頭を掻き毟る博士は、こちらに白旗を上げた。

「はぁ…分かった、分かったよ…君を連れてくよ…
だから…浮気は勘弁してくれ…」

「やったぁ!!ペイラー大好きっ!!」

勝利を得た少女は、死守した自分の居場所に歩み寄ると嬉しそうにその腕を絡めるのだった。




というのが、まあ事の経緯である。

フェンリル本部。
あの小さな島国を出て向かう場所は、全世界の支部を纏め上げる謂わば組織の総本山だ。

各支部へと落とされる物資や予算はここから割り振られる。
今回の博士の出向は、その辺りの話を詰めに行くことが目的のようで、当然ながら他支部の長もこの会合には集まる。

どれだけの予算を自分達の支部に獲得できるのか、今回の会合は各々の手腕が問われる訳だ。

だからだろうか、先程乗り換えた迎賓用ヘリの機内は乗り合わせた彼らから漂う剣呑な空気で満たされており、ギスギスとした雰囲気で実に居心地が悪かった。

「ユウ、何か飲むかい?」

博士は読んでいた機内の冊子から目を離すと、そんな風に自分に聞いてくる。

ひりつく空気の中、相も変わらず超然とした様子でいられる彼はやはり大物だ。

「いえ、大丈夫です」

「…何もなくて退屈だろう…冊子はプロパガンダな内容で面白味はないし、機内放送もまた然りだしね…
何か本でも用意してくればよかったね…」

『気が付かなくてすまなかった』と、彼に謝られて、逆に申し訳なくなる。

「そんな、謝らないでください。私が無理を言って付いてきたんですから…
退屈じゃないですよ?
こんな風に窓から知らない景色を眺めるの、凄く楽しいですし…それに」

ユウは甘えるようにフィアンセの胸に顔を寄せその身体に抱き付くと、彼を見上げながら幸せそうに微笑んだ。

「あなたの傍にいられることが、私の一番の幸せですから」

そう…ここが私の『楽園』なのだから。

「ユウ……あぁ…ホントにここが個室でないことが、今、猛烈に悔やまれるね…」
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