黎明の夢 外伝

□My Fair Lady
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博士はこちらの身を心配して言ってくれてる。
でも、こっちも好奇心で彼に付いて行きたいだなんて思ってない。

彼の傍らは…彼の左隣は…自分の居場所だから。

喩え、それが仮の役割であろうとも、演じるのが自分の知己であろうとも…
その場所だけは絶対に何があっても譲りたくはなかった。

「…っ迷惑は掛けません!ずっと大人しくしてますから!だから…だから…っ!あなたの傍に私以外の人を置いたりしないで…っ」

追い縋るように博士の胸に飛び込むと、彼は言葉を詰まらせ返答に困っているようだった。

「ぅ…ユウ…だ、ダメだ!ダメだっ!!その手には乗らないよ!
今回ばかりは君の我が儘は聞かないからね!君は大人しくアナグラで留守番していなさい!」

肩を掴まれ身体を引き離すと、博士は逃げるようにソファーから立ち上がる。

うぅ…懐柔失敗…小憎らしいなぁ。

今度、リッカに婚約指輪をメリケンサックに変えてもらおうか?などと背けられた背中に向け物騒なことを思ってしまうのも、この人を思うが故。

しかし、最近この手が通用しなくなってきた。
ならば、新たな手を使わねばなるまい。

こちらもサクヤ女史には色々とご教授してもらっているのだ。そう簡単に諦めたりするものか。


「…………浮気しちゃうぞ?」


極小さくそう呟けば、博士はピクリと肩を震わせ反応を示す。

「……え?」

彼は僅かにこちらに顔を向け、物騒な囁きに食い付いてきた。
そこですかさず、ユウは大きな声で宣言してみせる。

「浮気しちゃお〜かなぁ〜?」

「んなぁっ!?」

博士はあからさまに狼狽え始めた。
おー、どうやらこれは中々に良き手であったらしい。

何時もはこちらがからかわれ狼狽える方なので、狼狽する彼の姿を見れるのは、かなり愉快である。

更に追い討ちをかける為、ユウは心にもない言葉を彼の前で連ねていった。

「そう言えば、ブレンダンさん、アーク計画の責任を感じてアナグラに帰ってからも全然元気がないって、この間、タツミさんが話してたなぁ…慰めに行ってあげようかなぁ〜」

「うぐっ!」

「あぁ!カレルからも食事のお誘いがあったんだよねぇ〜、外部居住区に美味しいドイツ料理屋さんが出来たって。
ソーセージが特に美味しいとか言ってたっけなぁ〜、行っちゃおうかなぁ〜」

「なっ!?そ、ソーセージ…だとぉ!?」
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