黎明の夢 外伝

□My Fair Lady
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「…確かに、あの自己顕示欲の塊みたいな連中のご機嫌を取らなくちゃならないのは、非常に面倒臭くはあるけどね…
けど、財界の有志が集まる今回の夜会は、支部の今後を左右し兼ねない重要なものだったりするんだよねぇ…これが…
エイジス凍結の件もあるし、最大の出資者である彼らを無視する訳にはいかないから…」

かしかしと頭を掻くと、博士はまたもため息を吐く。それも自分の顔を見て。
一体、何だと言うのだろう。

「まあ、それはどうとでもなるからいいんだけど、問題はねぇ…その事じゃないんだよ…
こういう社交の場はね、パートナーを伴い赴くのが通例なんだ。
妻帯者なら伴侶を、独身者であるなら恋人や婚約者といった、近しい間柄の女性をね」

そう言って、彼は煩わしそうに眼鏡のブリッジを指で上げる。

はて?フィアンセならここにいるではないか?
一体、何を悩むと言うのだろう。

すると、博士は酷い一言を口にした。

「…流石にこれをすっぽかす訳にはいかないし…
はぁ…仕方ない…パートナーはツバキ君に頼むとするか…」

自分ではない女性の名が彼の口から上がり、あまりの仕打ちにユウは言葉が出ず呆然として彼の顔を見詰める。

聞き間違い?そんな淡い期待を抱きながらただ黙って博士の様子を見遣れば、

「いや…彼女に頼むと支部がガラ空きになるか…
うーん…ならここはサクヤ君にでも頼むか…それとも…」

と、ぶつぶつと呟く彼の口から出るのはやはり別の女性の名前。

とうとう我慢ならなくなったユウは、自らの婚約者に躙り寄ると…

「…ん?ユウ、どうかしたか…いぃいたたたっ!!!!」

その両頬に爪跡が残るほど、きつく指先で抓り上げた。
突然の強襲に戸惑う彼をよそに、ユウは険しい眼差しで目の前の瓢箪鯰を睨み付ける。

「な、なに?何で怒ってるの!?」

痛む頬を擦りながら、博士はちょっと涙目で情けなく反論した。

何でだなんてそれも酷い言い草だ。だって…

「あなたの婚約者(フィアンセ)は私でしょっ!!!!」

声の限りにそう叫べば、彼は目を丸くしたまま、気圧されるように身体を仰け反らせた。

本気で口にしてるなら酷い裏切りだ。

ずっと傍にいさせてくれると…ずっと傍にいて欲しいと言った癖に…

悔しくて、涙が溢れ落ちそうになるのを必死で堪えた。

「あ…いや…も、勿論だよ?だけどね、ユウ…君を連れ立って本部へ行く訳にはいかないだろう?」

『理由は言わなくても分かるよね?』と彼は諭すようにそう言って自分を宥める。

そんなこと…言われなくても分かってる…
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