過去おまけ掲載文

□おまけ
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「はい、どうぞ。」

リビングに戻ってきた博士に、自分専用のコーヒーカップを手渡される。

それを彼から受けとると、ユウは華やかに笑いながら、『ありがとう』とお礼を言った。

芳ばしい珈琲の香り。

口にして、それがプロ並みな手前であることに、何時もながら驚かされる。

そこでふと疑問が。

珈琲のみならず、緑茶や紅茶、果ては中国茶に至るまで、その道の人間が淹れたように出来る彼は、
一体、どういった経緯を経てその技を習得したのか、きっかけは何だったのか、それに少し興味を持った。

その疑問を好奇心の赴くまま、彼に尋ねてみると、あからさまに顔を曇らせる。

…あれ?

何だか何時もと様子が違う。

何時もなら、『ふふ、そうだね…』と適当に話を合わせはぐらかすか、
『ああ、それはね…』と、うんちく混じりの講釈を付けるか、どちらかをするのが彼の常なのだが、
そのどちらもせずに、博士は眉を八の字に寄せ、こちらの質問に答えるか考え倦ねていた。

その様子に何かあると直感が告げる。

…何だろ、まさか女性がらみとか…?

それは由々しき事態だ。
これは是が非でも問い質さねば。

「…い、いや、大した理由はないよ。あ、ほら、このマカロン美味しいよ?
食べてごら――」

「聞きたいです。」

ニッコリ笑って、話を逸らす博士にそう返す。

「でも、あまり面白い話でもないから…」

「き・き・た・い・です。」

ニコニコと笑顔の強迫。

自らの言い分を聞いてくれそうにないユウの姿に、
はぁ、と博士は深々とため息を吐き、首を垂れた。

「分かったよ…但し、笑わないで聞いてくれよ?」

諦めて話をすることに決めた彼は、こちらに身体を向き直すと、気恥ずかしそうにして昔語りを始めた。

「これは、僕が学舎にいた時分の話なんだけど…
当時の僕は研究の虫でね、一日の大半を研究室で過ごしてたんだ。」

研究の虫っていうのは今も変わらないと思うけどな…

けれど、そんな些細なことで、話の腰を折るのも悪いので、そこは敢えて聞き流すことにする。

「まあ、籠っていてもお腹は空くし、喉も乾く。
でも、外に出ていくのも、面倒臭く感じてね。研究室で飲食を済ましてたんだ。
珈琲なんかも、当時はインスタントでビーカーに淹れて飲んでたよ。」
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