泡沫の夢

□chicken heart
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…泣かせてしまったな‥

もう少し、ましな言葉が掛けられなかったのかと、今更ながら後悔している。

声を荒げてしまうなど、失態もいいところだ。

その後、逃げるように部屋を出たのも、実にお粗末な対応だった。

自分はこんなにも、女の扱いが下手だったか?

もっとスマートに、あしらうことが出来ていた気がしたのだが。

…いや、違うか。

今まで付き合いがあった女性は、すべて本気ではなかった。

唯一、本気になりかけた人は友の手を取った。

彼女が初めてなのだ、これ程‥焦がれた存在は。

だから、気持ちを偽り飾り立てた言葉で、煙に巻くようなことが出来なかった。

「……はぁ‥」

二度目のため息が、重々しく部屋に響く。

…参ったね‥

『本気』がこれ程まで辛いものだとは…
立ち直るのには、暫くかかりそうだ。全く、情けない。

「失礼します。」

うら若い女性のその声と共に、ラボの扉が開かれた。

「……リッカ君か、発注書を持ってきたのかい?」

ソファーに身体を預けたまま、僅かに顔を入り口に向け、気怠く彼女にそう声を掛けた。

だらしのない姿であるなとは思ったが、正直しゃんとする気力がない。

「はい。あら、博士?大分お疲れのご様子ですね?」

ニヤニヤしながら、リッカは自分に話し掛けてくる。

…なるほど。

含みのある言い方と、笑いを向けられ、何となく察した。

「…リッカ君、彼女を焚き付けたのは君かい?」

『さあ、何のことでしょう?』と、隠すつもりもないその態度に、カチンときた。

「…君は余程、暇みたいだね?
君のその暇潰しに、私や彼女を巻き込むとは、実に良い趣味をしている。」

声のトーンがいつもより低い。
抑えているつもりだか、胸に渦巻く憤りが、声に乗ってしまっているようだ。
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