黎明の夢 外伝

□bad drunk!
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カフェテリアの一角で、粛々と晩餐の準備が進められている。

サクヤとの結婚式から数日、その内祝いを本日この場所にて行う予定なのだが、当事者であるリンドウは、正直この会にはあまり乗り気ではなかった。

この場に集まるのは気の知れた自らの知己ばかり。
そんな連中相手に、改めて女房自慢をするような真似をするのは居住まいが悪く、どうにもこそばゆくて敵わない。

今更、内祝いのパーティーなんてやらなくてもいいだろうに…

けれど、そんな愚痴なぞ我が妻君の耳に入ろうものなら、彼女の勘気に触れること間違いなしだ。

『お世話になった人達を持て成すのは当然のことでしょ!!』

とかなんとか言われて、お約束のヒール攻撃を食らう羽目になるのに決まっている。
アレは地味な攻撃の割には与えられる痛みは絶大だ。

いいように女にいなされる自身の姿を、リンドウは少々情けなく思う。
悲しいかな家長の威厳は数日も持たず、今や自分は完全に妻の尻に敷かれていた。

「おう、リンドウ。調子はどうだ?」

肩を落としテーブルセッティングを進めるリンドウの背中に、初老の男が声を掛ける。

「ああ、ゲンさん。早いですね、まだ準備中ですよ」

「はは、今日はただ飲みだからな。祝酒だし、昼間っから飲んでても誰も咎めないってのは中々"美味しい"状況だ。一番乗りで来てやったぜ」

そう言うと、老人は差し入れだと、ドンッ!とアルミ製の樽をテーブルの上に置き自分に寄越した。
それの登場に思わず歓喜の声を上げる。

「おおっ!?生樽じゃないですか!!しかも10L!なんて太っ腹!」

日頃、安ビールか発泡酒ばかりをあてがわれているビール党には、生ビールは堪らない逸品だ。
我知らずテンションが上がった。
以前、配給タバコを賞与としてカートンで貰った時以来の興奮を感じる。

「おうよ!雑じり気なしの生ビールだぜ!お前さん、"麦媒体"の酒が好きだったろ?」

「そう言うゲンさんは"芋媒体"でしょ?良い焼酎、用意してありますよ?」

酒好きのゲンが来ることは知っていたので、事前に彼の好みの芋焼酎を入手しておいたのだ。
老人に一升瓶を見せれば、今度は彼のテンションが上がる。

「うおっ!?そりゃ、九州産か!!よく手に入ったな!
あそこはいい酒が多かったからな、楽しみだ!…あーところでな、リンドウ」

ゲンは神妙な面持ちでリンドウの傍らに近寄ると、こそりと耳打ちをした。
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