黎明の夢 外伝
□満る月 後編
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少年の声に恋情にも似た熱を感じて、ユウの視線は気恥ずかしさに知らず泳いだ。
すると、『照れてるんですか?可愛いなぁ』と何時ものように彼にからかわれて益々顔が熱くなる。
あっ、後、ジュース美味しかったよ。アラガミなんかよりもずっとずっと、美味しかった…ありがとう
レンは言葉を紡ぐか躊躇うようにしていたが、徐に目を伏せると、思い立つようにして口を開いた。
貴女…いや…ユウ、君に出逢えて本当に嬉しかった…
そう言って、ニコリと微笑む目の前の少年は淡い光となり、その姿が、存在が、段々に薄らいでいく。
レンは消えかける自らの手のひらに目を落とし、少し寂しそうにして笑った。
あーあ…もっと君達と色々話したかったな…
"話す"ってもどかしくって、暖かくて凄く好きだったよ…
「…レン、私もあなたと話せて…楽しかった、嬉しかった…ありがとう、レン」
一時の間だけ、自分と秘密を共有した不思議な仲間。彼と出逢えたからこそ、自分は"生きる"ことを諦めなかった。
感謝してもしきれない。
言葉を交わす間も、レンの身体は光の中へと消えていく。
そろそろ、お別れみたいだ…
少年は自らの朋の前まで歩み寄ると、右手を彼に差し出した。
バイバイ…またね…
差し伸ばされたその手を、リンドウは確りと掴み力強く握り返す。
「ありがとう…俺の相棒。またな…近いうちに、また会おう」
青年と再会の約束を交わし、彼から手を放すやレンはこちらへと目線を移す。
…ユウさん
消えかけたその手を差し出せば、彼は友好の証を自分にも求めてきた。
ユウがその手を取ろうとした瞬間、
「――えっ?んンッ!?」
柔らかい感触。
伸ばした腕をレンに掴まれ強引に引っ張られて、唇が少年の唇と重なった。
それは僅かな触れ合いでしかなかったが、彼がこちらを蹂躙するには十分な時間だった。
「ンッ…ハッ…なっ、ななななっ!?!?」
深い繋がりをユウが慌てて離せば、レンは愉悦するように口許に笑みを浮かべて『今度は間接キスじゃないですよ?』と、意地悪くそう言った。
「レンッ!!!!」
あははっ、また…会いましょう?その時まで、二人ともお元気で…
目映き光が満ちて、全てが白い闇に包まれる。
少年の別れの言葉と共に、悪夢は終わりを告げた。
エイジスは静かだった。
呪いから解き放たれた青年は、その呪いを解いた傍らの少女と共に安らに眠っている。
もう二度と、彼らが悪夢に苛まれることはない。
中天の青い月の下、かつて交わした約束は果たされた。
上弦の月が望月に満つるように、彼らの願いは満ちて新たな道を歩み出すだろう。
暁の空に月が沈み、日がまた昇るそのように…