黎明の夢 外伝

□満る月 前編
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そこは実に不可思議な場所だった。
目にするのは、見慣れた筈のアナグラのエントランス。
けれど、人の気配はなく、ターミナルの起動音だけが何処か不気味に響いていた。
薄気味の悪い世界。
そもこの場所には彩(いろ)がない。匂いがない。
時間の流れも曖昧で、自分が"ここにいる"という実感を感じづらい、そんな場所だった。

「ようこそ、ユウさん。僕の思い描いていた結末から遠く離れた世界へ」

その呼び掛けに振り向けば、レンが皮肉っぽい笑みを向けてこちらを見詰めていた。

「レン…ここは?」

「そうですね…貴女が知っているアナグラとは少し違います。もっとも、僕もここに来るのは初めてなんですけど…」

そんな風に言うと、レンはこの『アナグラもどき』を訝ぶかしく見渡していた。

「ここは恐らく……貴女とリンドウ…厳密に言えば、僕も…あぁ…後"余計なの"がもう一つか…まぁ、それらのオラクル細胞のニューロ…いや…安っぽく言った方がいいかな…詰まりこの場所はリンドウの意識の中ですよ…うん」

「…リンドウさんの意識の中?」

レンは分かりやすく説明してくれようとしたみたいだが、今一つ分からない。

現実味がないという点では意識の交錯現象である感応現象に近い。
しかし、この中では自分は自律して動けてるし、傍観者ではない。
その点が大きな違いか。
夢の中…表現するならそれに近い気がする。

彼の見る夢を自分も一緒に見ている、今はそうとでも思えばいいだろう。
それよりも、

「どうしてこんなことが起きてるの?」

黒のハンニバルはどうしたのか?
あれから、リンドウはどうなったのか?
いきなり蚊帳の外に追い出され、結末が何も分からないままなのはどうにも不安で仕方がない。

「そうですね…僕が分かる範囲で説明します…」

そう言うと、レンはこの状況に至った経緯をとつとつと語り始めた。

「先ず、リンドウの神機による侵食で貴女の腕部がアラガミ化しました…
そのまま神機で宿主であるリンドウを貫けば、"平穏無事"に終わってた話が…貴女ときたら"血が上った"のか、"天然"なのか、アラガミの方に向けて、あんな"馬鹿げた"原始的な攻撃を仕掛けたんですよ?」

『思い出しましたか?』とレンはどす黒いオーラを放ちながら、ニコニコと笑ってる。

…こ…怖い…

少年の言葉の端々に刺々しさを感じた。レンは相当お冠なようだ。
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