黎明の夢 外伝

□intermission
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医務室のベッドの一つに、一人の少女が眠っている。

何か怯えるように、寒さに凍えるように、その小さな身体を更に小さく丸めて、その子は心細そうに膝を抱えて眠っていた。

まるで、母猫からはぐれた仔猫のようで、彼女のその姿にレンは心を痛める。

…ユウさん。

レンは彼女の傍らに座ると、艶やかな黒髪を梳くようにして優しく撫でた。

『一人だと眠れないの…
ごめん、レン…ここで少し休ませて…』

任務から帰ってきたユウは、申し訳なさそうにして自分にそう頼んだ。

彼女の身に何があったかは知らない。

でも、肩を落とすその姿があまりに辛そうで、苦しそうで、悲しそうで…
普段ならそんな私的なことに干渉しない自分が思わず歩み寄り、労るようにその肩を抱いて、初めて会ったあの時のように、ベッドに彼女を寝かしつけてやった。

今、漸く眠ってくれた訳なのだが、女性の寝顔をいつまでも見ているのは失礼だと思いつつも、何故かこの少女の傍を離れがたい自分がいて、そのことに少々戸惑う自分もいる。

明るくて快活、意思が強く正義感の強い少女。
それが彼女、柊ユウという少女の自分の持った印象だ。

だからこそ、自分は彼女に白羽の矢を立てた。
ユウならば自分の『願い』を叶えてくれるものだと。

果たして、それは正しい判断であったのだろうか?

今になって、そんな疑問を抱いてしまう。

考えてみれば、ユウはまだ十七才の少女で、神機使いでなければ、本来、多感な時期を過ごす思春期の普通の女の子だ。

自分が強いろうとしていることは、この子を苦しめるだけなのではないのか?
などとらしくなく、感傷的な思いに苛まれる。

もぞり。人恋しいのだろうか、ユウはこちらへ擦り寄るように小さく身動ぎする。

可愛い…

可笑しなものだ。
自分は彼女を利用する為だけに近付いたというのに、こんな"人間らしい"感情をこの少女に抱くなんて…

ふいと、ユウが自分の手を握ってきた。

起こしてしまったのかと、驚いてレンは彼女の姿を見遣るが、ユウは固く瞼を閉じたままで目を覚ました気配はない。

…寝惚けてる?

彼女の顔を覗き込むと、目頭には涙が溜まっていて、留まれなかったそれは、鼻梁(びりょう)を越えて枕に落ちてじわりと滲んだ。

ユウの桜色の唇が、小さく何か言葉を紡いでいる。
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