黎明の夢 外伝
□intermission
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「…貴様がこいつのことをどう思っているのか知らんが、こいつを其処らの女共と一緒にするな」
イルは自分に向けていた目線を彼女に向けてそう言った。
その眼差しは、この男には不似合いなほど慈愛に満ちている。
「こいつは自らの運命(さだめ)を嘆き、憐憫するような安い女じゃない。
決して覆らぬ運命にも潰されず、命の灯が尽きるその時まで足掻き、藻掻き、己が進むべき道を見付ける…そんな女だ。
見ているがいい、凡骨。
こいつは必ず自分の手で道を切り開いて見せるぞ。
それにな…」
イルは彼方を見詰めて口を開くと、続く言葉を紡ぎ出す。
「俺は『あの男』のことを存外買っている。アレならば、こいつに絡み付いた死の糸を断ち切ってくれるのではないかとな…
なればこそだ…レン。この二人の道行きに水を差すような無粋な真似はするな」
そう釘刺し傲慢な王は自分の前から去っていった。
イル。
悪道を意味する言葉だが、ウガリット神話では神々の父とされる最高神を示す名でもある。
あの男の存在が彼女にとって、至上の神となるのか、それとも死に至る病となるのか…自分には分からない。
「そこまで言うのなら、確りと見届けさせてもらいましょう…貴方の言う通り、彼女が不可避の運命から逃れられるかを…」
破滅の道を辿る自分達の主。
その滅びの運命を覆せるものなのか、少しばかり興味が湧いた。
「…貴方が口にした言葉が真実か否か、もうじき分かりますよ…イル。
イル…"マンイーター"」
レンは真偽を見極めるように、神妙な面持ちで秘めた彼の真名(まな)を呼ぶ。
幕間は終わり、彼らの舞台の終幕の帳が上がる。
舞台の結末は悲劇か大団円か…
未来は誰にも分からない。