黎明の夢 外伝
□hide and seek
1ページ/23ページ
ぽとり。
角砂糖が一つ、珈琲の中へと静かに沈んでいく。
褐色の液体を吸うと、四角い砂糖は小さな音を立て、ぐずりとカップの底に砕けて小さくなって溶けていった。
ぽとり。
また一つ、角砂糖を摘まむとユウはそれをカップに落とす。
沈んだそれは、また崩れて溶けてなくなった。
消えていくその様を、ユウは覇気のない眼差しでただ呆然と眺めていた。
崩れていく…
溶けて消えていく角砂糖は自分と博士の関係のようだ。
考えてみたら、彼と気持ちが通じ触れ合う関係になってから、まだ半年も経っていない。
彼への想いの深さは、長年連れ添う恋人達よりも深いものだと、自信を持って言える。
けど、想いだけで彼のことをちゃんと理解していたのかと聞かれれば、情けないことだけど、それは自信がない…
彼の故郷を知らない。
彼の幼少時のことも話したことがない。
彼が過去、どんな風に過ごし、どんな風に人に想いを寄せていたのかも聞いたことが…ない…
好きだと、愛していると…甘い言葉で囁いてくれはしたけれど、心の内側を明かすような語らいは、彼とはあまりしていなかった。
…私、今まで博士の何を見てたんだろう…
時折彼が見せた、怯えた瞳のその奥にある闇を、自分はちゃんと見詰めていなかった。
甘えれば優しくしてくれることが当然だと…
気持ちを込めて話をすれば、相手に想いが伝わるものだと…
けれど、それはこちらの都合のいい妄想でしかなくて…それに甘えてしまった結果、今…彼との絆が崩れ掛けてしまっている。
ぽとり。
角砂糖がまた崩れて消える。
それがカップの底からなくなると、ユウはシュガーポットの中から新しい砂糖を摘まみ上げた。
と、その手をふいと掴まれ、手にしたトングがテーブルに落ち、甲高い金属音を打ち鳴らす。
「…あ」
「リーダー…砂糖いくつ入れるつもりなんですか?」
自分の手を掴む彼女は、眉根を寄せて憂える面差しでそう言った。
「…ありさ‥」
そうだ…忘れてた。
アリサに誘われて、カフェテリアで一緒にお茶をしていたんだった…
アリサは手元にある砂糖たっぷりの珈琲カップを下げると、こちらに目を向けため息を吐く。
「もう…気分転換に誘ったのに、そんな風に塞ぎ込んだままじゃ意味ないじゃないですか…」
「…ごめん、アリサ」
首を項垂れてアリサに謝ると、彼女は手を差し伸べて労るように握った。