黎明の夢 外伝

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ぽとり。
角砂糖が一つ、珈琲の中へと静かに沈んでいく。
褐色の液体を吸うと、四角い砂糖は小さな音を立て、ぐずりとカップの底に砕けて小さくなって溶けていった。

ぽとり。
また一つ、角砂糖を摘まむとユウはそれをカップに落とす。
沈んだそれは、また崩れて溶けてなくなった。

消えていくその様を、ユウは覇気のない眼差しでただ呆然と眺めていた。

崩れていく…

溶けて消えていく角砂糖は自分と博士の関係のようだ。

考えてみたら、彼と気持ちが通じ触れ合う関係になってから、まだ半年も経っていない。

彼への想いの深さは、長年連れ添う恋人達よりも深いものだと、自信を持って言える。

けど、想いだけで彼のことをちゃんと理解していたのかと聞かれれば、情けないことだけど、それは自信がない…

彼の故郷を知らない。
彼の幼少時のことも話したことがない。
彼が過去、どんな風に過ごし、どんな風に人に想いを寄せていたのかも聞いたことが…ない…

好きだと、愛していると…甘い言葉で囁いてくれはしたけれど、心の内側を明かすような語らいは、彼とはあまりしていなかった。

…私、今まで博士の何を見てたんだろう…

時折彼が見せた、怯えた瞳のその奥にある闇を、自分はちゃんと見詰めていなかった。

甘えれば優しくしてくれることが当然だと…
気持ちを込めて話をすれば、相手に想いが伝わるものだと…

けれど、それはこちらの都合のいい妄想でしかなくて…それに甘えてしまった結果、今…彼との絆が崩れ掛けてしまっている。

ぽとり。
角砂糖がまた崩れて消える。
それがカップの底からなくなると、ユウはシュガーポットの中から新しい砂糖を摘まみ上げた。
と、その手をふいと掴まれ、手にしたトングがテーブルに落ち、甲高い金属音を打ち鳴らす。

「…あ」

「リーダー…砂糖いくつ入れるつもりなんですか?」

自分の手を掴む彼女は、眉根を寄せて憂える面差しでそう言った。

「…ありさ‥」

そうだ…忘れてた。
アリサに誘われて、カフェテリアで一緒にお茶をしていたんだった…

アリサは手元にある砂糖たっぷりの珈琲カップを下げると、こちらに目を向けため息を吐く。

「もう…気分転換に誘ったのに、そんな風に塞ぎ込んだままじゃ意味ないじゃないですか…」

「…ごめん、アリサ」

首を項垂れてアリサに謝ると、彼女は手を差し伸べて労るように握った。
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