黎明の夢 外伝
□迷走
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「ユウ〜!ちょっと、待って!」
自室へ戻るところ、後ろから駆け寄ってきたコウタに呼び止められた。
彼は息急き切らせてこちらへとやって来る。
何かあったのだろうか…
このところ気の滅入ることばかりが続いていて、正直辟易していた。
彼の用が何なのか分からないが、大したものでないと良いのだが…
コウタは自分の前で立ち止まれば、息を軽く整えた後徐に腕を掴み、用件も言わず自分を何処かへと連れ出そうとする。
「え!ちょ、何、コウタ!何処連れてく気!?」
「ごめん!ちょっと付き合って!お前の力が必要なんだよ!!」
そう言って、やはり理由は説明しないまま、ユウは彼に腕を引かれ区画エレベーターに乗せられた。
……ここ…
着いた先は役員区画。
コウタは区画最奥にある、あの人がいる執務室へと迷わず進んでいく。
「こ、コウタ、何するつもりなの!?」
「いいから、いいから。
ユウは博士に口を利いてくれるだけでいいからさ」
あぁ…そう言うことか。
何をする気か未だ分からないが、その用件とは自分の『支部長代理の婚約者』という立場が有利に働く類いのものであるらしい。
でも…
「コウタ…何をするつもりなのか知らないけど…多分、博士は私の頼みは聞いてくれないよ?」
「え?何で?」
伏し目がちに前を行く少年を見ながらそう告げれば、彼は不可思議そうにこちらを見遣る。
「…だって…私……」
そこで口籠もる。
どう説明したらいいのか、分からない。
派手に喧嘩をしたわけではない。
彼とは想いの相違があっただけ。お互い想い合っているのにも拘わらず…
だからこそ、出来た隔たりは深い。
互いを慮っていても、想いの方向性が全くの別ベクトルであるということは、感情的に仲違いしたことよりも、ずっと質が悪かった。
だから、きっと彼は自分の頼みはもう聞かない。
それをこの子にどう説明しよう。
いや、それ以前にこんな話誰かになんて話せない。
コウタは自分のその様子が、謙遜で言っているのだと思ったようで、ポンポンと背中を叩くとニッと笑ってこちらを励ます。
「えー、大丈夫だって!
博士、ユウにベタ惚れなんだからさ、ユウが一声掛ければどんな頼みもイチコロだろ?
さ、行こうぜ!」