黎明の夢 外伝
□迷走
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ピッピッ…
静かな病室に、バイタルを測る音だけが響いている。
この音が、彼が生きている証であるということが凄く心細くて、ユウは傍らに座ったまま繋いだ手を離せずにいた。
ふいと、病室の扉が開け放たれる。
目を向ければ、ツバキの姿がそこにはあった。
「ユウ…まだここにいたのか…今回の彼の昏倒は、過労と睡眠不足によるものだ。明日には目を覚ますのだから、お前はもう部屋に戻ってもいいのだぞ?」
「でも…離れたくないんです…離れている間にこの人の容態が急変したらって…そんな風に思っちゃうと、落ち着かなくて…
すみません、ツバキさん。もう少しだけ、ここにいさせてください…」
そう、ツバキに懇願すると、彼女は頬に手を伸ばし涙の跡が残るそこを優しく指で拭う。
「…程々にな。お前まで倒れたのでは、冗談にもならんからな?」
母が子を労るような眼差しを向けて、ツバキはユウの頬を撫でた。
すると、彼女の端末が震え出しコールが掛かったことを知らせる。
「私だ…ああ…そうか…分かった、すぐに向かう」
短く了承の返事を返せば、ツバキは通信を切り、涼やかな目を不快に細める。
「まったく…こんな時に限って事務処理が多くて困る…ユウ、私は戻るが、お前も切りがいいところで引き上げろ、いいな?」
「はい、分かりました」
来て早々に、ツバキは慌ただしく病室を出ていった。
博士が倒れた今、支部長職の書類仕事も彼女が成さなければならないのだから足を留める暇もない程、忙しいのだろう。
ユウは静かに眠る博士に目線を落とす。
「…ずっと…寝てなかったんですか?」
返されない問い掛け。
延命の方法を探して…
リンドウの行方も探しながら…
ずっと…ずっと、この人は眠らなかったのだろうか?
「……っ」
握る彼の手の甲に、溢れ落ちた涙がじわりと滲んだ。
「ペイラー…このままじゃ…あなたの方が死んじゃうよ…っ」
ギリッと血が滲む程に唇を噛み締める。
彼に無茶をさせなければならない『自分』という存在に、ユウは酷い憤りを覚えた。