黎明の夢 外伝

□希望か絶望か
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鎮魂の廃寺。
感応現象で見たあのエリアに、調査隊が送られてから数日。
その付近にてある遺留物が発見された。

『仄暗い羽』

そう呼ばれ、最近巷で高価で取り引きが成されている素体である。

掻き集められラボに送られたそれらは、早速分析に掛けられゲノム解析された。

収拾したモノが劣化の激しいもの、腐食したものが多く解析には少々時間が掛かったが、その解析結果が先日漸く出たようで、
今、目の前を歩くツバキの手には、その詳細資料が携えられている。

彼女は、エントランスに緊急召集された三部隊の面子の前で立ち止まると、自分達の顔を見遣った。

主要三部隊が全召集されることは異例中の異例なことだ。

事態を知らない多くの者達は、訝る眼差しで目の前のツバキの姿を見ていた。
固唾を呑み彼女が口を開くのを待つ。

「先頃、調査隊がある遺留物を収拾し、それを詳しく調べてみたところ、DNAパターン鑑定の照合結果から、対象をほぼ雨宮リンドウ大尉のものと断定した。
よって本日一二〇〇をもって、雨宮大尉の捜索任務を再開する」

ツバキの一言に皆どよめいた。
それもそうだ。一月以上も失踪していた人間が生存しているなど、戦場(ここ)では考えられないことだ。

MIA(作戦行動中行方不明)になった人間は、その時点でKIA(戦死)と変わらない。
アラガミに死体を綺麗に食われてしまえば、認識標(ドックタグ)さえも残らずこの世から存在が消える。

不明者が戦死と変わらず絶望視されるのはその為だ。故に、彼の生存はまさに奇跡としか言い様のないものであり、隊内に動揺がもたらされるのも無理はなかった。

嬉しい戸惑い。
が、吉報に浮き足立ち始める皆に向け、その一報をもたらした人物の釘を刺す言葉が後から続く。

「生存事態はほぼ間違いないだろうが、腕輪の制御から離れて久しい為、大尉はアラガミ化の進行が懸念されている。接触には十分注意を払うように」

そこで言葉を切ると、ツバキは徐に頭(こうべ)を垂れた。
そして、面を上げて一言。

「いい年した迷子の愚弟を…皆、よろしく頼む」

それは上官としてではなく、弟を思う一人の姉の姿。

その場に集まる多くの人間が、彼女の想いに是と頷き賛同したのだった。
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