黎明の夢 外伝

□記憶の残滓
12ページ/12ページ



カンッ‥カラン…


甲高い音を打ち鳴らし、ジュースの缶が格納庫の床を転がっていく。

「…どうかしましたか?」

そうレンに問われ、漸く自分が現実に戻れたことを知った。
掴んだレンの腕を離すと、ユウは呆然と立ち尽くす。

「……」

いや…これは…本当に現実か?

だって…こんな奇跡あり得ない。
もう戻らないと思っていた人が…自分達を置いて行ってしまった筈のあの人が…!

生きてたなんて!!

「あの…ユウさん?」


「…行かなきゃ」


「え?」

眦を決すると、ユウは踵を返して急いでエレベーターへと乗り込み格納庫を出ていった。




一人格納庫に残されたレンは、ユウが落とした初恋ジュースの缶を拾い上げ、彼女が去っていた方を物憂げに見遣る。

「ふぅ……今のが感応現象か…凄いな…」

少年は飲み口を袖で軽く拭うと、僅かに残った中身を口にした。

「皆不味いって言ってたっけな…美味しいのになぁ…これが不味いなんて"人間"の味覚って随分と贅沢なんだな…」

そう独りごちると、レンは最後の一滴までそれを飲み干した。
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ