黎明の夢 外伝
□My Fair Lady
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只今高度1000メートル。
蒼天に棚引く白き雲のその近さに、ここが地表から遥か遠い場所であることを改めて知る。
眼下に広がる俯瞰の風景は実に爽快だ。
軍用ヘリと違い、迎賓用のそれの乗り心地は比べ物にならない程、心地好い。
ただ…
ユウは隣の博士の肩越しから機内の様子を伺った。
目にする『その人達』の澄ました体裁に酷く居住まいが悪い。
場違いな小娘がいるとでも思われてるのだろう、(実際そうなのだが…)
これに乗り合わす前も後も、奇異の眼差しを彼らから向けられているのをユウは感じていた。
我慢、我慢、自分から行くって言ったんだから…
我が儘を言って彼に付いてきたのだ。この程度のこと我慢できなくてどうする。
そう自分に言い聞かせた。
そも、事の発端は一通の招待状から。
本部からの召喚命令書と共に、それは彼の下へと送られてきた。
「…参ったなぁ」
慣れない管理職から帰って来た博士は、自室のソファーにぼすりと腰を下ろすと、手にした書簡に眉根を寄せ困窮した目を向ける。
「…どうかしたんですか?」
彼にお茶を差し出すとユウはその横に腰を掛け、彼に身体を寄せながら、目の前で掲げられる封筒を一緒に眺めていた。
「ん、ありがとう。いや、本部からまた召喚命令がきたんだけど、それと一緒に夜会の招待状も送られてきてね…ちょっと困ってるのさ」
「はぁ…夜会ですか」
耳慣れない言葉を聞き、興味深くそれを繁々と見詰める。
夜会とは物語やドラマなどに出てくる舞踏会とか、そういうもののことだろうか?
ヒラヒラと煌びやかな衣装を纏う女性が、ウィンナーワルツを踊る姿を一瞬想像した。
小首を傾げそんなことを思っていると、博士に頭を抱えられ額にキスをされる。
「はは、違うよ。今の夜会は君が思っているよりも、遥かに地味なものだよ。
商談の為に設けられた社交の場みたいなものだからね、軽い立食パーティーみたいなものかな?」
上層階級の人間だからといって、旧世代のような豪華絢爛なパーティーは開けないものだと彼は言った。
「だけどまあ、本質的には然程変わりはしないけど…要は狐狸共の腹の探り合いだから…」
博士はため息を一つ吐くと、手にした封筒をテーブルの上に投じる。
「…困ってるのはその所為ですか?」
政治的な駆け引きをしなければならないことが煩わしいのかと、ユウが彼に尋ねれば彼は少し複雑そうな顔をして彼女を見詰めた。
ん?なに?