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□おまけ
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ifシリーズ。死神の求婚の続きです。ソーマとプチ旅行?
◇◆◇◆◇◆
廃寺エリアから少しばかり離れた場所。
目の前に広がる、灰色の海と、旧世界の遺物である鉄道施設の残骸と、岩礁が続く海岸線を二人見渡す。
『ねぇ、ソーマ』と、ゆなはニコリと微笑みながら、愛らしく自分の名前を呼んだ。
「知ってる?ここね、七里ヶ浜って言うんだよ?
昔はここで、沢山の人がまりんすぽーつ?っていうのをやってたんだって」
アラガミの侵食から逃れたその岩場で、寄せ返す波と戯れながら、ゆなは懐かしむような口調で隣に立つ自分にそう語る。
廃寺でのミッションの帰り、どうしても行きたい所があると、珍しく、我が儘を言うゆなに付き合いここへ来たが、こいつの様子からするに、どうもただの物見遊山で来た訳ではないらしい。
「…随分と詳しいな」
地名など、国体を失い、その土地に住むことすら出来ない今の世界では、何の意味も持たない。
敢えて、口にするような人間がいるのなら、それは、
「うん、私ね…この辺りの生まれなの」
未だ数多く残されている、外部居住区からあぶれた人間達が、逃げ忍ぶ『隠れ里』の出身者ということだ。
「確か、リンドウもこの辺に住んでたんだよな?」
では、以前からこいつらは見知った仲だった、ということなのだろうか?
しかし、そんな話をゆなからは、終ぞ聞いたことがない。
今まで隠されていたのだとしたら、それは少しばかりショックだ。
あれやこれやと、頭の中を邪推が巡っていることを察したらしいゆなは、くすりと笑い自分の手を取った。
互いの指を絡ませるようにして、強く握りしめる。
「リンドウさん達が住んでたのは、鎌倉山の方。
私は稲村ヶ崎方面のバラック出身だから、アナグラに来るまで、あの人にはあったこともなかったよ」
『妬いた?』と、下から覗き込むようにして彼女に問われたので、どうにも気恥ずかしくなって、
「…バカ言え」
赤くなった顔を見せないように、ゆなから顔を背けた。
「何だ、残念。焼きもち焼いてくれてたら、嬉しかったのに」
と、上目遣いでこちらを見遣る。
「バカか…自分の女房に、改めてそんなもん感じる訳ないだろ」
「くすっ、そう言う割にはソーマ、顔赤いよね?」
『可愛い』と、余計な一言つけたし、ゆなは自分の胸に身体を預けてきた。